日本国が特許法条約(Patent Law Treaty;PLT)に加入するにあたり、手続の統一化及び簡素化により出願人の利便性向上及び負担軽減を図ることを目的として、2015年に特許法の一部が改正されました。手続期間の延長機会の拡大、出願日認定要件の緩和が盛り込まれたこの改正特許法は、2016年4月1日より施行され、 また、改正特許法の施行に合わせて審査基準及び審査ハンドブックも改訂されました。
主な変更点は以下のとおりです。
(1)出願日の認定要件の明確化及び手続の補完
(2)先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願
(3)明細書又は図面の記載の一部欠落の補完
(4)指定期間の延長
(5)外国語書面出願の翻訳文の取扱い
指定期間の延長(上記(4))に関しては、前回のニューズレターをご参照下さい。
(1)出願日の認定要件の明確化及び手続の補完(特許法第38条の2)
特許出願について、以下のいずれかに該当する場合を除いて、特許出願の願書を提出した日が特許出願の日として認定されます。また、
①特許を受けようとする旨の表示が明確でないと認められるとき、
②特許出願人の氏名若しくは名称の記載がなく、又はその記載が特許出願人を特定できる程度に明確でないと認められるとき、
③明細書が添付されていないとき、
のいずれかに該当した場合には、特許庁から補完を求める通知がなされます。出願人は、省令で定める期間内(2か月)に限り補完ができます。補完をした場合、補完した日が特許出願の日として認定されます。また、通知があったにもかかわらず補完をしないときは、当該出願は却下されます。
(2)先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願
特許出願の願書に明細書を添付しなくても、一定条件の下、出願日が認定される制度が導入されました。
願書に記載する事項は以下の通りです。
①自己が行った先の特許出願(外国で出願したものも含みます。)を参照すべき旨を主張する方法による特許出願(以下「先願参照出願」)である旨、
②当該先の特許出願の出願番号、出願日、出願をした国(機関)。
出願日から4か月以内に、明細書及び必要な図面、先の出願の認証謄本を提出することが必要です。また、先の出願が外国語で記載されているときには日本語による翻訳文を提出します。このとき、出願料とは別に、14,000円の手数料の納付が必要となります。
なお、先願参照出願の出願日は、原則、願書の提出日となりますが、出願後に提出された明細書及び図面の記載事項が、先の出願の願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲に含まれないときは、当該明細書及び図面を提出した日が出願日となります。このため、例えば実施例等を追加したような場合には、出願日が明細書等の提出日に繰り下がってしまいますので、この点注意が必要です。
また、外国語書面出願、分割出願、変更による出願には適用できない点、及び、先の特許出願の明細書等が外国語であったとしても、後から誤訳訂正書による補正ができない点にも留意が必要です。
(3)明細書又は図面の記載の一部欠落の補完
特許出願の願書に添付されている明細書又は図面の記載の一部が欠けている場合には、特許庁から、欠けている部分(以下「欠落部分」)を補完することができる旨の通知が行われます。
欠落部分の補完が可能なのは、通知の日(通知前に自発的に補完する場合は、出願書類の特許庁到達日)から2か月となります。補完された明細書及び図面は、願書に添付して提出されたものとみなされます。
欠落部分を補完したときは、原則として、その日が出願日となります。ただし、欠落部分を補完する特許出願が優先権主張を伴うものであって、かつ、欠落部分が当該優先権主張の基礎出願(原則としてその写し等の提出が必要)に完全に含まれているときは、出願日は願書の提出日となります。
(5)外国語書面出願の翻訳文の取扱い
外国語書面出願の翻訳文の提出期限が、現在の「出願日(又は優先日)から1年2か月以内」から2か月間延長されて、「出願日(又は優先日)から1年4か月以内」となりました。
また、外国語書面出願の翻訳文が、提出期間内に提出されなかったときは、特許庁から通知が行われ、通知の日から2か月内に限り、翻訳文の提出ができることになりました。
更に、外国語書面出願することができる外国語は、現在の英語のみから、英語その他の言語に変更され、英語以外の言語による外国語書面出願が可能となりました。
なお、「特許法条約」及び「商標法に関するシンガポール条約」の加入書は平成28年3月11日にWIPO事務局長に提出され、これらの条約は、平成28年6月11日に効力が発生することとなりました。
<特許庁リンク>
https://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/plt_tetsuzuki_20160210.htm