ニュースレター

法務:パワハラ防止措置の義務化について

Newsletter (2020年8月) │ 法務

新型コロナウイルスの影響により就業環境も変化しつつある中、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」という。)の改正に伴い、2020年6月1日から、事業主に対し、パワーハラスメント防止措置を講じることが義務化されました。中小事業主[1]については、2022年4月1日から義務化される予定であり、それまでは努力義務とされていますので、一定の猶予期間がありますが、早めの対応が期待されています。

 

特に、新型コロナウイルスの影響により在宅勤務やリモートワークを導入する企業が増えていますが、そのような中で「リモートハラスメント」と呼ばれる言葉も見聞きするようになりました。リモートハラスメントの中には、室内の様子を映すよう求めたり、業務に関係のない二人きりでの会議・通話を強要したりといった、セクハラ的なものと、業務の進め方や時間の使い方の説明を過度に求めたり、オンライン会議を過度に求めるといった、パワハラ的なものに大きく分けられます。

 

そこで、本稿では、職場におけるパワーハラスメントに関する規制等について、改めて紹介したいと思います。

 

  1. 職場におけるパワーハラスメントとは?

 

労働施策総合推進法第30条の2第1項は、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定めています。

 

さらに、厚生労働省は、2020年1月15日、労働施策総合推進法第30条の2第3項に基づき、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき指針」(以下「パワハラ指針」という。)を策定・公表しました。

 

労働施策総合推進法およびパワハラ指針に照らすと、職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要件を全て満たすものをいいます。

 

①職場における優越的な関係を背景とした言動であって、

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

③労働者の就業環境が害されるもの

 

要件①との関係では、一般的には、上司から部下に対する言動が考えられますが、これに限られるわけではありません。同僚同士あるいは部下から上司に対する言動であっても、その同僚や部下が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難である場合や、同僚や部下が集団的に行う言動で、抵抗・拒絶が困難である場合にも、パワーハラスメントは成立します。

 

要件②については、社会通念に照らして、言動が明らかに業務上の必要性がない、あるいは、その態様が相当でないものを指します。客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワハラには該当しません。この要件の判断に当たっては、言動の目的、言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度、継続性、労働者の属性や状況、行為者との関係、当該言動により労働者が受ける身体的または精神的な苦痛の程度等、様々な要素が総合的に考慮されます。

 

要件③の「労働者の就業環境が害される」とは、その言動によって労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味しています。その判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが適当と考えられている点が、重要なポイントといえます。

 

  1. 代表的な類型

 

パワハラ指針によれば、職場におけるパワハラの代表的な類型として、以下の6つが挙げられます。

 

①身体的な攻撃(暴行・傷害)

➁精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損など)

➂人間関係からの切り離し

④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

➄過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 

この中で特筆すべきは、いわゆるアウティング(労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報を労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること)が、個の侵害の該当例として明記されている点です。プライバシー保護の観点からも、機微な個人情報を不用意に暴露しないように、労働者に周知・啓発する等の措置を講じることが強く求められるようになってきているといえます。

 

  1. 事業主が講ずべきパワハラ防止のための措置

 

事業主は、以下の措置を必ず講じなければならないとされました。この義務が課されるのは、現時点では大企業に限られますが、2022年4月1日からは中小事業主にも適用されますので、中小事業主であっても早めの対応が期待されています。

 

(1)パワハラ防止に向けた方針等の明確化およびその周知・啓発

 

まず職場におけるパワハラの内容やパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発することが求められます。具体的には、就業規則、内部規則、社内報などで、パワハラの内容や、その発生原因・背景を労働者に周知・啓発したり、パワハラを防止するための研修や講習等を実施するといった対応が必要です。

 

パワハラを行った者に対しては、厳正に対処する旨の方針や対処の内容についても、就業規則その他の文書に規定して、労働者に周知徹底することが求められています。

 

また、パワハラの相談を行ったことなどを理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨も定め、労働者に周知・啓発することが求められています。

 

(2)パワハラ事案へ対応するための体制整備

 

次に、パワハラ事案に関する労働者からの相談に備え、内容や状況に応じて適切かつ柔軟に対応するために、相談窓口を定め、労働者に周知することが求められています。さらに、相談窓口の担当者が、労働者からの相談に適切に対応できるように、必要に応じて、人事部門と連携を図ることができる仕組み作りや、相談対応に当たってのマニュアルを事前に作成すること、また、相談窓口の担当者に対する研修を実施することなども必要です。

 

相談内容には、相談者・行為者双方のプライバシーに属する情報が含まれるため、その保護のために必要な事項もあらかじめマニュアルに定めておくことが必要ですし、相談窓口の担当者に対しては、プライバシー保護のための研修も行う必要があります。

 

(3)パワハラ事案発生後の迅速かつ適切な対応・再発防止策

 

実際にパワハラに関する相談があった場合、まずは事実関係を迅速かつ正確に確認することが必要です。事実関係の確認のためには、相談者と行為者の双方からヒアリングを行う必要がありますが、パワハラの申立て自体がさらなるパワハラにつながる可能性がありますので、事案によっては、第三者から事実関係をヒアリングした上で、行為者に対してヒアリングを実施するといった柔軟な対応も求められます。

 

事実関係の確認において重要なポイントは、相談者あるいは行為者に対して決して先入観を持って臨んではならないという点です。相談者の中には、いわゆる問題社員と呼ばれる人が出てくるかもしれませんが、たとえ問題社員であったとしても、業務上必要かつ相当な範囲を超えた指導であればパワハラに該当しますので、先入観を持たずに、公平に事象を判断する必要があります。

 

職場におけるパワハラが密室空間で行われることもありますので、相談者に確たる証拠(録音した音声データ等)がない場合もあります。また、パワハラを受けた社員が、行為者に対して迎合的になることも考えられます。そのため、当事者同士のメールのやり取りが一見すると良好な関係と思える場合がありますが、安易に判断せずに、慎重にヒアリングを行った上で、職場におけるパワハラかどうかを判断する必要があります。

 

そして、事実関係の確認の結果、パワハラが認められた場合、被害を受けた相談者に対する配慮のための措置を講じる必要があり、例えば、配置転換や、行為者の謝罪、管理監督者等によるメンタルヘルス不調への相談対応などが考えられます。また、行為者に対しては、掲げた方針に従い、懲戒処分を行ったり、配置転換や被害を受けた労働者へ謝罪させるといった対応が考えられます。

 

再発防止の観点からは、パワハラの事実が確認できなかった場合でも、パワハラ防止に向けた会社の方針を改めて労働者に周知するとともに、ハラスメントに関する意識を高めるための研修等を実施することが求められます。

 

  1. 望ましい取組

 

パワハラ指針では、積極的に行うことが望ましい取組として以下の事項が挙げられています。

 

①セクハラ・マタハラ等の他のハラスメントと一元的に相談に応じることのできる体制の整備

➁職場におけるパワハラの原因や背景となる要因を解消するための取組

➂アンケート調査や意見交換等を通じて、パワハラ防止のための措置の運用状況の把握や必要な見直しの検討等に努めること

 

また、取引先の労働者、就活中の学生、フリーランサー、インターンシップ生等の自らが雇用する労働者以外の者に対する言動についても、ハラスメントを防止するための方針を示すとともに、適切な相談対応に努めることが期待されています。すなわち、自社の社員が、取引先や関係者に対して迷惑行為を行わないように自覚を促すことが強く求められています。

 

さらに、自社の社員が、取引先や顧客等から受ける迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)に関しても、相談等のための必要な体制を整備するとともに、迷惑行為を受けた社員への配慮(メンタルヘルス不調への相談対応等)や、被害防止のための取組を行うことが期待されています。

 

  1. まとめ

 

ハラスメントという言葉も社会に浸透して久しく、リモートハラスメントという言葉に象徴されるように、今後ハラスメント問題への対応や従業員からの相談が増えると思われます。実際に社員からハラスメントの相談があった場合、初動がとても重要です。企業は、使用者責任を負っていますので、職場におけるパワハラが認められる場合は、損害賠償責任を負いかねませんので、パワハラの有無について慎重に判断せざるを得ませんし、とりわけパワハラが認められない場合は、相談者への対応に苦慮することになります。そのため、ハラスメントの問題が大きくなる前の初期の段階から弁護士を関与させることが肝要です。弊所は、社内規程の作成や社外の相談窓口として機能することもできますし、職場のパワハラの防止や解決に至るまで対応できますので、何なりとご用命いただければと思います。

 

[1] 中小事業主とは、「国、地方公共団体及び行政執行法人以外の事業主であって、資本金の額または出資の額が3億円(小売業またはサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下であるもの、および、その常時使用する労働者の数が300人(小売業またはサービス業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業を主たる事業とする事業主については100人)以下であるもの」をいいます(改正附則4条)。

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知財:中国特許の優先権成立の判断について

Newsletter (2020年6月) │ 知財

優先権制度はパリ条約4条に規定されている様に、同盟国の国民が他の同盟国へ出願する際の言語的及び手続的の不平等を解消するための制度であり、中国において特許法第29条と特許法実施細則第32条により規定されている。しかし、優先権の認定に際し同一主題の発明が最初の先行出願に記載されているか否かの判断はまだ明確されておらず、業界内でも議論されてきた(例えば、ZL97197460.8の無効審判事例、ZL201510398190.1の無効審判事例を参考)。

今般、ZL201210399309.3、発明の名称「糖尿病を治療するためのジペプチジルペプチダーゼ阻害剤」の無効審判事例では、医薬分野出願の特許における優先権の認定に関する問題が焦点になり、合議体により審査の方針が示された。以下では、該事例に対して簡単に紹介し、同一主題の発明の判断要件について説明する。

 

一.本件特許について

本件特許の出願日が2006年09月13日であり、US60/717558(優先日:2005年09月14日)とUS60/747273(優先日:2006年05月15日)の2件の外国優先権を主張していた。

本件特許の請求項1:

以下の構造式を有し、経口投与で1日あたりの投与量が5㎎から250㎎である、II型糖尿病を治療する医薬組成物を製造するための化合物Iの応用。

(ここで、化合物Iは、医薬上許容され得る塩又は遊離の塩基として存在する。)

 

二.請求人の主な請求理由と主な証拠

請求項1~17は証拠4に対して優先権の主張が成立できず、新規性を有しないため、特許法第22条第2項の規定を満たしていない。

証拠4は本件特許の特許権者が出願した先行出願WO2005/095381A1で、出願日が2004年12月15日であり、公開日が2005年10月13日である。証拠4と本件特許との時間関係は下図の通りである。

証拠4においてDPP-4阻害剤としての化合物I、化合物Iの遊離塩基、薬学上許容され得る各種の塩、及び化合物Iを含む組成物及びそれらの製造例が開示され、糖尿病の治療に使用でき、経口投与を含む投与方法に適することも開示されている。

請求人の主張は以下の通りである。

経口投与や1日あたりの投与量という技術特徴は共に医薬品の使用方法に該当し、スイス・タイプ・クレームである請求項1に対して実質的な影響を与えず、限定的作用を有しない。証拠4に本件特許と同じ主題の発明が公開されているため、本件特許が主張している優先権の先行出願は最初の出願ではなく、優先権の主張が成立できない。証拠4に化合物1の遊離塩基、各種の薬用可能な塩が開示され、しかもその効能と製剤実例も開示されている。従って本件特許の請求項1は証拠4に対して新規性を有しない。

 

三.特許権者の反論

(1)先行出願と後の出願の主題が同じか否かの判断は先行出願に対して後の出願が新規性を有するか否かの判断とは異なる。後の出願の請求項に限定されている技術方案と、先行出願に記載されている技術方案とを比較し、両者が同じか否かを確定してから、両者の主題が同じであるかを確定すべきである。

(2)請求項1における技術特徴「1日あたりの投与量が5mg~250mgである」は請求項の必須部分である。証拠4には請求項1に限定されている化合物IがII型糖尿病を治療する医薬品を製造するための用途が開示されていない。また、請求項1の医薬組成物は1日あたりの投与量が5mg~250mgである化合物Iを経口投与でII型糖尿病の治療に使用し、化合物Iが薬学上許容できる塩又は遊離塩基の形式で存在するという内容も開示されていない。証拠4に請求項1-17のいずれの技術方案と同じ技術方案が開示されていないため、本件特許が優先権を主張できる。

 

四.争論点

本件特許が優先権を主張できるか、つまり、証拠4には本件特許の請求項の発明と同じ主題の発明が記載されているか否か。

 

五.合議体の認定

優先日よりも前の先行出願に本件特許の請求項の発明と同じ主題の発明が記載されているかを判断する際、両者が属する技術分野、解決する技術問題、採用された技術方案及び予期できる技術効果が同じか否かを全体的に考査すべきであるとして、具体的に、合議体は以下の通り認定した。

(1)技術分野について

本件特許明細書の記載によると、本件特許は糖尿病治療の技術分野に属し、具体的にDPP-4阻害剤を使用して糖尿病を治療する技術分野に属する。

証拠4の発明名称はジペプチジルペプチダーゼ阻害剤であり、明細書の記載によると、新しいDPP-4阻害剤を使用して、糖尿病、特にII型糖尿病を治療する技術分野に属すると記載されている。

よって、両者の技術分野は同じである、と判断された。

(2)技術問題

本件特許の解決する技術問題は、糖尿病の治療に適したDPP-4阻害剤の化合物及びその医薬組成物を製造することである。

証拠4の解決する技術問題は、糖尿病を治療するための新たなDPP-4阻害剤を提供することである。

よって、両者の技術問題は同じである、と判断された。

(3)技術方案

両技術方案が同じか否かを判断する際、記載内容が形式的に完全に一致しているかに拘らず、両者の実質的な内容を考慮すべきである。しかし、請求項に限定的作用を有しない内容を技術方案の比較範疇に入れてはならない。このような限定は両者の主題に対して実質的な変化を起こさないからである。製薬用途クレームに含まれる用法用量は医師が治療中に医薬品を如何に使用するかに関する方法であり、医薬品の製造プロセスと関係がないため、製薬用途クレームの保護範囲に実質的な影響を与えず、請求項及びその保護範囲を理解する際には考慮されるべきではない。

本件特許の請求項1は化合物Iの1日あたりの投与量が5mg~250mgであることを限定している。しかし、該特徴は投与方法に該当し、請求項の保護範囲に対して影響を与えないため、本件特許の請求項1は、以下の通りに理解されるべきである。

請求項1:

以下の構造を有し、経口投与でII型糖尿病を治療する医薬組成物を製造するための化合物Iの応用。

(ここで、化合物Iは、医薬上許容され得る塩又は遊離の塩基として存在する。)

なお、証拠4は上記技術問題を解決するために、本件特許の化合物I又は該化合物Iを含む医薬組成物をDPP-4阻害剤として糖尿病を治療する技術方案を提供した。更に、証拠4の明細書に技術方案に対して詳しく説明を行った。具体的に、化合物Iを含む該医薬組成物は経口投与を含む投与経路に適している。そして証拠4の化合物Iは遊離塩基又は酸付加塩の形式であってもよい。明細書の実施例では、化合物Iを含む30の具体的DPP-4阻害剤の製造例が開示されている。証拠4の明細書には、更に、各測定方法により、各化合物のプロテアーゼ阻害効果を測定し、選択性DPP-4阻害作用を確認できたと記載されている。

単純に文言の記載から見れば、証拠4に本件特許の請求項1の表現と完全に同じ技術方案は記載されていない。しかし、証拠4に記載されている技術情報からみれば、証拠4は全体的に本件特許の化合物Iはその塩または遊離塩基を活性成分として経口投与の医薬品を製造することができ、該医薬品はII型糖尿病を含むDPP-4関連の疾病に使用できるという内容を開示している。

従って、両者の技術方案が同じである、と判断された。

(4)技術効果

両者が達成できる技術効果が同じであるか否かを判断する際に、先申請原則に基づき、優先日より早い先行出願には当業者により確認できる効果が達成され且つ記載されているかを審査する。仮に優先日より早い先行出願により提供された実験に基づいて、当業者が関連技術問題を解決でき、予期する技術効果を達成でき、後の出願の実験は先行出願の実験に対して単に完備と補充しただけであれば、両者が同じ技術効果を実現できると判断できる。

本件特許は、化合物Iを含む医薬組成物の経口投与により血漿DPP-4活性を効果的に阻害し、II型糖尿病の血糖値、グリコシル化ヘモグロビン、空腹時フルクトサミンのレベルを効果的に低下させるという技術効果を達成できた(実施例6〜8を参照)。

証拠4に記載されている技術効果に関しては、II型糖尿病を含む疾病を治療すると記載され、実施例ではDPP-4測定法を記載し、化合物が選択的なDPP-4阻害活性を示し、DPP-4の見かけの阻害定数(Ki)が約10-9Mから約10-5Mの範囲にあることが記載されている。

証拠4はDPP-4阻害活性があることを確認しているが、本件特許の明細書ではDPP-4阻害活性以外に、II型糖尿病患者に対して臨床試験を行い、血糖降下作用を確認し、更にマウスに対して、薬物併用による血糖降下試験を実施した。しかし、当業者は、常識と証拠4に基づき、DPP-4阻害活性を有することが、DPP-4によるGLP-1の切断を阻害することによってインスリン分泌とグルカゴン分泌を刺激し血糖値を下げることができ、II型糖尿病の治療に使用されることを確認できる。従って、証拠4を全体として分析すると、当業者は、本件特許の化合物Iを含む医薬組成物がII型糖尿病の治療に適していることを確認することができる。本件特許の明細書に記載された糖尿病患者とマウスに対して行われた血糖の研究は、証拠4に既に検証されたDPP-4の阻害活性に対して単に補充しただけであり、新しい技術効果が生み出していない。

従って、証拠4に開示されている技術方案は、本件特許の請求項1と同じ技術効果を有する。

上述の通り、証拠4に既に本件特許の請求項1と同じ主題の発明が開示されているため、US60/717558とUS60/747273とが最初の出願ではない。本件特許の請求項1は該二つの優先権を主張できない。

本件特許は証拠4に対して新規性がないとして、全部無効にされた。

 

六.弊所のコメント:

(1)優先権の成立条件について

特許法第29条、特許法実施細則第32条では、優先権について規定しており、優先権基礎としての先行出願と後の出願とは同じ主題を有し、しかも先行出願は最初の出願である必要がある。同じ主題は四要素が同じであることを意味し、1)先行出願と後の出願が属する技術分野、2)解決する技術問題、3)採用された技術方案、及び4)技術効果が同じであることを意味している。技術方案が同じであるかを判断する際には、先行出願の請求の範囲に記載されている内容に限らず、出願書類に開示されたすべての内容が考慮される。

また、最初の出願について、仮に該出願人の優先権主張の基礎である先行出願よりも早く、同じ主題が記載されている出願がされた場合、該先行出願は最初の出願ではないため、優先権の基礎とすることができない。実務の中で、最初の出願でない理由で優先権の主張が認められない事例は極稀であるため、それに関する審査の基準があまり知られていないのが実情である。今回の事例で典型的な事例として法律解釈の意味を示した。

(2)1日当たりの投与量について

技術方案が同じであるか否かを判断するには、後の出願の請求項における技術特徴は請求項に対して限定的作用がない技術特徴であれば、考慮されないということが明確にされた。本件特許において、請求項1における技術特徴「1日当たりの投与量が5mg~250mgである」は医薬品の使用方法に該当し、医薬品の組成成分や構造に対して実質的に限定作用を有する技術特徴でない。医薬分野では、用法用量、例えば投与間隔、投与量等が原則的に、医薬品に対して限定的作用を有しないと認定されており、優先権の主張の可否の判断には、技術方案の比較の対象として考慮されない。しかし、一部の特徴に対して、例えば投与対象など、ケースバイケースで具体的に分析する必要があり、限定作用を有すると判断された事例もある(弊所のニュースレター、中国におけるスイス・タイプ・クレームの現状https://se1910.com/ja/newsletters-ja/china-ip-newsletter-may-2018/をご参考ください)。

また、アログリプチンを巡る本件特許の無効審判事例を含む三つの無効審判事例の該用法用量について、以下の通り説明する。

10例の不服審判無効審判重要事例(2019年度)に選ばれたZL200680042417.8の無効審判事例では、「単一剤形に製剤される医薬組成物であって、当該単一剤形が5mgから250mgの化合物Iを含有する医薬組成物」(一部抜粋)と限定されている請求項1において、「単一剤形」に一回で一定の量の医薬品を投与するという医薬品の使用方法特徴が含まれる。しかし、該特徴と医薬組成物という主題とを組みあわせて検討すれば、該特定量の単一剤形は実質的に医薬組成物の形式に対する限定である。即ち、5mgから250mgの化合物Iを含有単一剤形は、医薬組成物の組成成分や構造に対して実質的な影響を与えるため、技術特徴として考慮された。

なお、ZL201210332271.8の無効審判事例では、「化合物Iと薬学上許容され得る担体とを有する医薬組成物であって、1日あたりの投与量が5mgから250mgである医薬組成物」(一部抜粋)と限定されている請求項1において、「1日あたりの投与量が5mgから250mg」という内容が医薬品の使用方法に該当し、医薬品の組成成分や構造に対して実質的に限定作用を有する技術特徴でないと判断された。

このように類似している表現のように見えるが、「単一剤形」という表現は複数投与剤形と区別できるため、実質的に限定的作用を有する技術特徴として認められていることを今後の実務に利用できると思われる。

(3)優先権の成立判断と新規性の判断について

優先権の成立判断にも新規性の判断にも同じ主題の発明であるかを判断するステップが含まれ、両者は類似している部分がある。先行出願を引例として見做し、後の出願が該引例に対して新規性を有するかを判断する。当該後の出願は先行出願に対して新規性を有しなければ、優先権を享受することができる。逆に、該後の出願は先行出願に対して新規性を有すれば、優先権を享受することができない。しかし、優先権の成立判断と新規性の判断とは完全に同じではない。例えば、ある技術特徴は先行出願において下位概念であるが、後の出願では上位概念に拡大した場合、後の出願は先行出願に対して新規性を有しなくても、優先権の主張が成立できない。後の出願に新しい技術内容を増やしたため、両者が同じ主題の発明ではなくなったからである。

(4)補足した実験内容の技術効果への影響について

一般的に技術方案が同じであることは四要素の判断に最も重要であり、仮に技術方案が実質的に同じであれば、技術分野や、技術問題と予期できる技術効果も同じであると言える。しかし、医薬分野では、技術効果が同じであることも四要素の判断に同じく重要なファクターである。医薬化学分野の技術効果の予見性は低いため、必須の実験データにより証明されなければならない。出願人が最初の出願を提出した後、新剤型、新効能などの研究を行い、更に臨床研究を展開することが多い。両者の技術効果が同じであるかを判断するには、後の出願が先行出願の技術効果に対して補充しただけなのか、それとも新しい技術効果が生まれたのか等を検討すべきである。

(5)抵触出願との関係について

2009年中国特許法が改正された前に、新規性を阻害する抵触出願は日本でいう拡大された先願とほぼ同等な意味を持ち、出願人自身が出願した先行出願は抵触出願に含まれなかった。2009年以後に抵触出願の対象は如何なる単位又は個人により出願された先行出願まで広げたため、2009年以降の類似事例に対しては、本無効審判事例の証拠4のような、優先日以前に出願され、出願日以降に公開された先行出願は直接に新規性を否定する証拠として審査される。

以上の通り今回の事例では特許庁の審判部の医薬分野の優先権の認定基準を把握できるようになった。典型的な事例として今後の類似の事件に対して指導的意味を示すことが期待されている。

 

参考:

http://reexam.cnipa.gov.cn/alzx/fswxsdaj/22225.htm

https://mp.weixin.qq.com/s/WCyjiHAB2PWrC-vR6Exe0g

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知財:中国最高人民法院知識産権法廷年度報告(2019)のお知らせ

Newsletter (2020年5月) │ 知財

中国最高人民法院(日本における最高裁判所)は2020年4月16日に「中国最高人民法院知識産権法廷年度報告(2019)」(以下、報告という)を発表した。2019年1月1日に正式に発足した中国最高人民法院の知識産権法廷は、全国的に特許等技術類の知的財産権上訴案件を審理し、審判基準を統一させ、裁判の品質と効率を更に改善する役割を発揮することが期待されている。当該報告は2019年度中国最高人民法院の知識産権法廷により取り扱されている案件について、案件に関する各種のデータの分析や、各種類の案件の特徴について纏めたものである。以下では、当該報告について簡単に説明する。

一.案件に関する各種のデータ

中国最高人民法院の知識産権法廷が2019年に受理した技術類の知的財産権案件は1945件、終結した案件は1433件であり、終結率は73.7%である。その内訳は下図に示したとおりである。そのうち、民事手続の第二審に当たる案件(「民事二審実体的案件」)の受理件数は962件、終結件数は586件であり、終結率は49.5%である。それに対して、行政手続の第二審に当たる案件(「行政二審案件」)の受理件数は241件、終結件数は142件であり、終結率は12.4%である。民事二審案件の終結率に比べ、行政二審案件の終結率が遥かに下回る。

1.案件の出所の分析

中国最高人民法院の知識産権法廷が2019年に受理した1684件の二審案件のうち、一審法院が中級人民法院である案件は1678件であり、一審法院が高級人民法院である案件は6件である。

また、出所の地域から見ると、案件数のトップ10位に入ったのは、北京知識産権法院(376件)、広州知識産権法院(297件)、上海知識産権法院(143件)、南京知識産権法院(107件)、シンセン知識産権法院(96件)、寧波知識産権法院(85件)、蘇州知識産権法院(71件)、杭州知識産権法院(70件)、青島知識産権法院(67件)、済南知識産権法院(53件)である。これらのデータは、技術類の知的産権紛争の全国における分布を反映し、経済が発達している地域であればあるほど、技術類の経済活動が活発で、関連紛争も多くなることを示している。

2.案件の種類の分析

受理された962件の民事二審実体的案件の種類は下図のとおりである。そのうち、高い比率を占めているのは実用新案権侵害紛争(47.2%)、特許権侵害紛争(24.3%)、ソフトウェア紛争(14.8%)である。

また、受理された241件の行政二審案件の種類は下図のとおりである。高い比率を占めているのは、特許権無効審判の審決取消訴訟(33.2%)、特許の拒絶査定の審決取消訴訟(29.5%)、実用新案権無効審判の審決取消訴訟(23.7%)である。

3.裁判結果の分析

2019年に終結した二審案件は1174件である。そのうち、一審判決を維持した案件は731件、取下げられた案件は280件、調停で終結した案件は71件であり、全体に対する調停・取下げの案件の比率は29.9%である。判決の変更と差戻しの案件は92件で、全体の7.8%を占めている。当該判決の変更と差戻しの92件のうち、民事二審実体的案件は66件、管轄権異議手続の第二審に当たる案件(「管轄権異議二審案件」)は21件、行政二審案件は5件である。

終結した586件の民事二審実体的案件のうち、一審判決を維持した案件は236件、取下げの案件は213件、調停で終結した案件は71件である。全体に対する調停と取下げの案件の比率は48.5%であるのに対して、一審判決の変更と差戻しの案件は66件で、全体に対する比率は11.3%である。

終結した142件の行政二審案件のうち、一審判決を維持した案件は126件であり、取下げの案件は11件であり、一審判決を変更したのは5件であり、全体に対する一審判決の変更率は3.5%である。

終結した446件の管轄権異議二審案件のうち、一審判決を維持した案件は369件であり、取下げの案件は56件であり、取下げの案件と一審判決を変更した案件は合わせて21件である。

4.審理期間の分析

2019年に二審案件の平均審理期間は73日であり、管轄権異議二審案件の平均審理期間は29.4日である。裁判官一人あたりの終結案件数は39.2件である。

5.渉外、香港・マカオ・台湾関連案件の分析
2019年に渉外、香港・マカオ・台湾関連案件の受理件数は174件である。そのうち、民事二審実体的案件は50件、行政二審案件は52件、管轄権異議二審案件は71件、その他案件は1件である。地域別から見ると、EU加盟国は75件、米国は54件、日本は15件、韓国は4件、カナダ、イスラエルはそれぞれ2件、オーストラリア、南アフリカはそれぞれ1件、香港・マカオ・台湾は20件である。

終結した渉外、香港・マカオ・台湾関連案件数は98件である。終結した民事二審実体的案件は35件であり、そのうち、外国当事者が勝った案件21件(一部勝った案件も含む)、香港・マカオ・台湾の当事者が勝った案件3件、大陸側当事者が勝った案件11件を含む。

二.案件の特徴分析

1.案件全体の特徴
2019年に法廷が審理した技術類の知的財産権案件は全体として以下の特徴を有する。

一、技術分野が広い。当事者が保護を求める知的財産権の種類は、医薬、ゲノム、通信、機械、農業林業など国民経済、先端科学技術、衣食住と密接する分野に及ぶ。

二、案件の社会的影響が大きい。(一)案件に係る知的財産の市場価値は比較的高い。権利者が第一審で主張した権利侵害の賠償額が1000万元(約1.5億円)を超えた案件は17件で、1億元(約15.1億円)を超えた案件は3件である。(二)案件は標準必須特許、医薬特許などの国民経済や先端科学技術に係るため、社会的注目度が高い。

三、手続きが交錯する案件が多い。法廷では当事者が相互に提訴する相互訴訟案件を数多く受理した。当事者が異なる人民法院で多数の民事訴訟、行政訴訟を相互に提起したため、複数の訴訟が異なる審理等級及び手続きに同時に係属する案件が多い。法廷は、審理手続き、判断基準、事件の全体的な調停などの観点から、事件処理の調整・調和に取り組んだ結果、2019年に終結した二審案件のうち、調停・取下げの案件の比率は29.9%に達した。

四、案件の審理期間が短い。民事と行政の手続きが交錯することや技術的事実の究明が困難であるなど多数の要素があるため、技術類の知的財産権案件の審理期間は一般的に長い。しかし、2019年に終結した二審実体案件の平均審理期間はわずか73日であり、技術類の知的財産権の裁判期間が長いという問題が有効に改善された。

五、国内外当事者の合法的権益を平等に保護する。法廷が受理した渉外、香港・マカオ・台湾関連案件は全体の8.9%を占めており、一部の案件は当事者間の外国での国際訴訟の一部に属しており、外国での特許侵害訴訟と互いに影響している。終結した民事二審実体的案件の結果を見ても、法廷は法律に従い、国内外の権利者の知的財産権を平等に保護する。

六、司法保護を強化する傾向が明らかである。誠実信用訴訟制度を運用し、文書の提出命令の履行を拒否するか又は保全されたものを故意に損壊した場合、当該行為者に不利に事実が推定される。終結した案件のうち、権利者が勝訴した案件は全体の61.2%を占めている。

 

2.特許民事案件の特徴
法廷が審理した特許に関する民事案件は以下の特徴を持っている。
一、主な争点が請求項の解釈と均等侵害の判断にある案件が比較的に多い。請求項の解釈は、特許権の保護範囲の確定と被疑侵害物件との比較の結果に係るため、法廷は個別の裁判例を通して、機能的特徴の認定基準、権利範囲に対するいわゆるサブジェクトマターの限定的作用、寄付原則の適用などについて深く探索した。多くの案件が均等侵害の判断の問題に関連し、如何に請求の範囲の公表の役割を維持しながら、特許権者に平等に保護を与えることが案件審理の難点である。

二、合法的出所、従来技術、先使用権による抗弁は最もよく見られる抗弁である。合法的出所による抗弁の案件が最も多く、争点が立証責任の分配、賠償責任の免除の範囲などに集中している。従来技術による抗弁は比較的自由に提出され、二審において初めて従来技術による抗弁を提出した案件が一定の割合を占めている。

三、商業上の権利保護の色彩を帯びる案件が一定の割合を占めている。これらの案件は、権利者が同一の専利権、特に実体審査を受けていない実用新案権を利用して、全国各地において一連の訴訟を起こしたものであり、またそこで訴えられている被疑侵害者の多くは商品流通の下流に位置する小規模の販売業者であるという特徴を有する。

 

3.特許行政案件の特徴

法廷が審理した特許に関する行政案件は以下の特徴を有する。

一、特許、ハイテク分野の案件が多い。特許の案件数は、無効審判の審決取消訴訟、拒絶査定不服審判の審決取消訴訟の中でいずれもトップとなり、イノベーションの主体と関係する公衆が特許価値を重視している様子を示している。技術分野では機械分野の案件数が最も多いが、無効審判の案件は電気分野と機械分野の数が並んで最も多く、また通信技術、コンピューターなどのハイテク分野の紛争も数少なくない。化学分野の無効審判案件数は全体的に多くないが、案件は医薬、バイオなどの重要産業分野に集中している。

二、多くの案件の主な争点が進歩性の判断にある。進歩性判断に関する案件は92件で、終結した特許に関する行政案件全体の約70%を占めている。一審判決を取消・変更した案件のうち、進歩性判断に関する案件は80%を占めている。法廷は同種の案件を審理する際、「三ステップ法」による非自明性の判断を重視し、また商業上の成功要因などを補助的に考慮している。そして、かかる考え方を化合物薬物の新規結晶型、生物材料寄託関連等の発明の進歩性判断に対して適用することにより、本当に価値のある発明が法律に保護されるよう企図している。

三、拒絶査定不服審判の審決取消訴訟は、自然人が出願人である案件が多い。法廷が結審した57件の特許拒絶査定不服審判の審決取消訴訟のうち、自然人が出願人である案件は75%以上を占めており、ほとんどが進歩性がなく、一部は実用性がない又は権利付与の対象に合致しない等により拒絶査定となった。
最高人民法院の知識産権法廷は、上記報告のとおり、数多くの知的財産案件を審理している。そして『最高人民法院知識産権法廷裁判要旨(2019)』を発表し、2019年に終結した案件の中から36件の典型的な案件を選出し、40条の裁判規則を洗練した。これらの案件と裁判規則は、技術類の知的産権分野で新しく、困難で複雑な案件を審理する際の審理思想と裁判基準であるとも言えるが、判例主義ではない中国において、裁判制度の更なる構築と審判基準の統一が発揮されるよう期待される。

 

出典:http://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-225861.html

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法務:(5月14日追記版)「対内直接投資についての改正外為法の施行日案とパブコメ結果をふまえた政令案等の修正」

Newsletter (2020年4月) │ 法務

「対内直接投資についての改正外為法の施行日案とパブコメ結果をふまえた政令案等の修正」についての法務ニュースレターをお送りします。2019年11月成立の改正外為法(外国為替及び外国貿易法)に関して公表された政省令案、告示案の内容については、2020年3月27日付の当事務所ニュースレター(こちら)で解説していますが、その後、改正外為法の政省令案、告示案については、4月12日までパブリックコメント(「パブコメ」)の期間が設けられました。このニュースレターでは、パブコメの結果を踏まえた政省令案の修正など、その後、2020年4月30日までの動きについてご説明いたします。(5月14日追記:下記8.にその後の動きを追記しています。)

 

1.      施行日・適用日の確定

2020年4月24日に、対内直接投資等に関する政令等の一部を改正する政令が閣議決定されました[1]。また、同日に、財務省より「外国為替及び外国貿易法の関連政省令・告示改正について」と題する資料(「財務省説明資料」)が公表され、これによると、2020年4月30日に、政省令および告示を公布し、5月8日(「施行日」)に改正法、政省令、告示が施行となり、施行日から30日を経過した日である2020年6月7日(「適用日」)に、改正法、政省令及び告示が適用されるとのスケジュールが明らかにされ、4月30日には、このとおり、改正外為法の施行日を定める政令ならびに上記の政省令および告示が公布されています(令和2年4月30日官報号外第90号)。

なお、3月の時点では、政令の閣議決定と同時に、銘柄リストも公表する予定とされていましたが、銘柄リストは閣議決定時には公表されず、財務省説明資料によると、銘柄リストの公表は施行日に行うとされています。

 

2.      経過措置

いつから改正法に対応した事前届出をおこなう必要があるのかについて、適用日以後に予定する1%以上の株式取得に関する事前届出は、施行日から適用日の間におこなうことが可能とされています。すなわち、6月7日以後に株式取得を予定している場合、5月8日から改正法に従った事前届出の提出が可能となります。

6月6日までに株式取得を予定している場合には、改正前の現行法のもとでの届出対象または事後報告対象の株式取得について、届出または事後報告すればよいことになります。

 

3.      (密接)関係者に関する変更

改正法では、上場会社株式の取得に加えて、外国投資家自らまたはその「関係者」が役員に就任することについて、株主総会において同意することも、届出の対象になりました。関係者の定義は、外国投資家自らが提案する場合には、その役員、使用人、主要な取引先が含まれ、他者(発行会社を含む)が提案する場合には、その役員が含まれるが、使用人や主要な取引先は含まれないとされ、提案者が誰かによって、関係者の定義に定性的な差異を設けていたところです(下表参照)。

この定性的な差異の一環として、パブコメの結果を踏まえて、外国投資家自らが提案する場合には、過去1年以内に役員、使用人、主要な取引先であった者も「関係者」に含まれるが、他者(発行会社を含む)が提案する場合には、過去1年以内に役員であった者は「関係者」に含まれないと省令案が修正されました。

財務省「パブリックコメントを踏まえた変更点について(4月24日)」

 

4.      「非公開の技術関連情報へのアクセス」に関する変更

届出免除の基準のひとつである「非公開の技術関連情報にアクセスしない」の「非公開の技術関連情報にアクセス」とは、(a)秘密記述関連情報であることを知りながら、当該情報を取得すること(発行会社などからの自主的提供を除く)、(b)秘密記述関連情報であることを知りながら、当該情報を開示することの提案、(c)秘密記述関連情報の管理にかかる規程、契約等の変更の提案を意味します(当事務所3月27日付ニュースレターQ13)。

 

上記について、パブコメをうけて、証券会社や銀行のM&A助言部門による非公開の技術関連情報へのアクセスについて、例外が定められました。すなわち、上記のうち、(a)および(b)について、①情報が株式売買部門に提供されないこと、②株式売買部門が保有している株式等を通じた影響力を遮断すること、の二点を担保する措置が講じられている場合には、「非公開の技術関連情報にアクセス」の定義には該当しないとの修正が告示案に加えられました。

 

5.      届出は6か月間の取得に利用可能

従前の案では上場株式の1%以上の取得の都度、事前届出が必要とされていたところを、修正案では、事前届出が審査を通過すれば、外国投資家は、届出日から6か月間、届け出た予定の数までは株式を随時取得することができ、取得の都度届出をおこなうことは不要とされています。6か月間に取得予定の株式数を記載した届出(および審査)の効力を6か月間有効とし、その間の取得ごとの届出を不要とすることにより、改正法への対応に必要な(社内)システム変更のための期間が確保できるものとされています。

どの程度の認識をもって「取得する予定」と記載することができるのか、また、より多くの取得予定数を記載することによる審査への影響やステークホルダーへの影響などをも考慮して、利用の是非を検討すべきと考えられます。

 

6.      株式取得時の事前届出及び事後報告の負担軽減

(1)事前届出

5.で述べたように、事前届出が審査を通過すれば、外国投資家は、届出日から6か月間、届け出た予定の数までは随時株式を取得することができ、取得の都度届出をおこなうことは不要とされました。また、株式取得後の事後報告は、現行法では取引実行から30日以内にすることが求められていましたが、45日以内へと提出期限が延長されました。

(2)事後報告

免除の制度を利用した場合、事前届出は不要となりますが、事後報告は取得の都度行うのではなく、取得割合が以下の各閾値になった場合に必要とされています。

(i)   はじめて1%以上となる時点

(ii)   はじめて3%以上となる時点

(iii)  10%以上の株式取得については、取得の都度

なお、(i)(ii)において「はじめて」とあるのは、(i)(ii)を充足した後に株式売却などで閾値を下回ったが、再度閾値を超えた場合を除外する趣旨です。

 

その他、免除利用時の事後報告と指定業種以外の業種における事後報告では、事業所管大臣を特定することは不要とするよう省令の様式が簡素化され、一定の事務の軽減が企図されています。

 

7.      その他の変更、パブコメの結果その他

上記のとおり、改正外為法の政省令案、告示案については、4月12日までパブコメの期間が設けられました。業界団体等から相当数のコメントが提出されたものと思われますが、現時点では、提出されたすべての意見に対する包括的な回答の報告は公表されていません。政省令案、告示案からの変更点は、上記の点に限られ、それ以外に案からの変更を示唆するものはありません。(5月1日追記:その後パブコメの結果も公表されています[2]。)

 

なお、事前届出での財務省及び事業所管省庁が審査に際して考慮する要素の案については、4月4日から5月3日までパブコメ募集が継続しています。

 

8.        今後の展開

施行日および適用日が確定し、改正法に従った運用開始のスケジュールが明らかになりました。当事務所の3月27日付ニュースレター(こちら)で述べたように、外国投資家に該当する可能性のある投資家や企業としては、改正法に従って、6月7日以降の株式の取得や、ポートフォリオへの役員選任対応、議決権対応について迅速な動きが可能になるよう、社内の外為法届出事務の体制・社外の相談体制を準備することが必要となります。また、銘柄リストは5月8日まで公表されませんが、指定業種に該当し、銘柄リストに記載される可能性の高いと考える日本企業は、銘柄リストの公表後速やかに、届出書記載事項に関する外国投資家からの照会にタイムリーに対応できるよう、体制を整えておくことが必要になります。(5月14日追記: 施行日の5月8日には、銘柄リストおよび上記7.の事前届出の審査に際して考慮する要素が公表されています。また、指定業種に医薬品等、高度管理医療機器製造業を追加する告示案が、5月1日から30日までパブリックコメントに付されています。)

 

(2020年4月30日公開、5月1日追記、5月14日追記)

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ゾンデルホフ&アインゼル法律特許事務所では、外為法を含む外国貿易規制およびこれらに関連するM&A・投資・出資についてのアドバイス、契約作成・交渉・修正業務、研修、当局・紛争訴訟対応等、関連する法務アドバイスを日常的に提供しています。

 

本書において提供する情報は、あくまで一般的な情報として提供されるものであり、具体的な専門的アドバイスを提供するものではありません。また、本文中の意見にわたる部分は執筆担当者の個人的な見解にすぎず、事務所としての法律意見またはlegal opinionを構成するものでもありません。具体的な事案に関するご相談には個別に対応いたしますので、改めて執筆担当の弁護士渡辺 直樹まで、お問い合わせください。

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法務:「改正外為法の政省令案・告示案の公表」

Newsletter (2020年3月) │ 法務

「改正外為法の政省令案・告示案の公表」についての法務ニュースレターをお送りします。改正外為法(外国為替及び外国貿易法)(2019年11月22日成立、同29日公布。令和元年法律第60号。公布日から6ヶ月以内に施行。以下「改正法」)は、外国投資家による日本企業の株式の取得について、従来に比して、より広範な事前届出の義務を課すものですが、その内容の詳細は、政省令や告示に委ねられており、明らかにされていませんでした。このニュースレターでは、2020年3月13日付政省令案・告示案[1]について、Q&Aの形式でお届けいたします。(5月7日追記:なお、本ニュースレター後の動向については、2020年4月30日の当所ニュースレター(こちら)をご覧ください。)

 

Q1 今回の外為法改正の狙いとするところは何ですか。

国の安全等を損なうおそれのある投資について、昨今、米国、欧州等主要国において制度改正による対応強化の動きが進んでおり、日本としても適切な対応が必要であるとの認識から、日本の安全保障に関係する企業への外国投資家の関与について、適切なモニタリングを行うためのものとされています。

 

Q2 対内直接投資についての従来のルールはどのようなものでしたか。

従来のルールは、事後報告を原則としながら、①国の安全保障などに支障をきたす業種、日本がOECDの資本移動自由化コード上自由化を留保している業種(農林水産業、石油業、皮革・皮革製品製造業等)に係る投資、②相互主義の観点から、日本との間で対内直接投資に関して条約などがない国の外国投資家による投資については、審査付事前届出制となっていました。また、2019年には、投資や買収を通じた機微技術の流出を適切に管理するべく、外国投資家が他の外国投資家から非上場株式の株式・持分を取得する行為を「特定取得」とし、このうち国の安全を損なうおそれが大きいものについて、審査付事前届出の対象とする改正が施行されていたところです。

 

Q3 改正外為法の主な改正点は何ですか。 

主な改正点は、①外国投資家による日本企業の株式取得について、Q2にて述べた審査付事前届出の対象となる業種を拡大するとともに、②届け出るべき上場会社株式の取得比率の閾値を10%から1%に下げています。また、③安全保障への懸念が低いと認められる一定の要件を満たす外国投資家については、届出の特例として免除の制度を新設し、届出制度の目的に照らして効果の適切化を図っています。

 

Q4 政令案・省令案・告示案の公表で明らかになったのは、どのような点ですか。

事前届出対象となる業種(Q6参照)、新たに届出対象とされた行為(Q7参照)、外国投資家の範囲の変更(Q9参照)、新設される免除制度の概要(Q11参照)などが、明らかになりました。

 

Q5 外国投資家による上場会社等の株式取得で、事前届出が必要となる取得比率にはどのような変更がありますか。

改正前は発行済株式総数の10%以上の取得の場合に事前届出が必要でしたが、改正法では、発行済株式総数の1%以上の取得で事前届出が必要となります。

 

Q6 事前届出対象となる業種にどのような変更がありますか。 

改正前に事前届出の対象となる指定業種とされているのは、日本標準産業分類1465業種のうちの155業種です

今回の改正では、指定業種を「コア業種の分野」と「それ以外(指定業種のうちコア業種の分野以外のもの)」とに分けました。コア業種には、以下の12業種が該当します。

 

指定業種のうちコア業種の分野
  • 武器
  • 航空機
  • 宇宙関連
  • 原⼦⼒関連
  • 軍事転⽤可能な汎⽤品 (以上については限定なし)
  • サイバーセキュリティ関連:サイバーセキュリティ関連サービス業、重要インフラのために特に設計されたプログラム等の提供に係るサービス業等
  • 電力業:⼀般送配電事業者、送電事業者、発電事業者(最⼤出⼒5万KW以上の発電所を有するものに限る)
  • ガス業:⼀般・特定ガス導管事業者、ガス製造事業者、LPガス事業者(貯蔵所⼜は中核充てん所を有するものに限る)
  • 通信業:電気通信事業者(複数の市区町村にまたがる電気通信サービス等を提供している者に限る)
  • 上水道業:⽔道事業者(5万⼈超の給⽔⼈⼝を有するものに限る)、⽔道⽤⽔供給事業者(1⽇あたり2.5万㎥超の供給能⼒を有するものに限る)
  • 鉄道業:鉄道事業者(事態対処法上の指定公共機関)
  • ⽯油業:⽯油精製業、⽯油備蓄業、原油・天然ガス鉱業

財務省資料をもとに当所にて作成

 

「それ以外(指定業種のうちコア業種の分野以外のもの)」は、サイバーセキュリティ関連、電力業、ガス業、通信業、上水道業、鉄道業、石油業のそれぞれのうち上記に記載するコア業種以外のもの、熱供給業、放送業、旅客運送、生物学的製剤製造業、警備業、農林水産業、皮革関連、航空運輸、海運です。

指定業種のうちコア業種の分野以外のもの
  • サイバーセキュリティ関連:コア業種の分野以外のもの
  • 電力業:コア業種の分野以外のもの
  • ガス業: コア業種の分野以外のもの
  • 通信業: コア業種の分野以外のもの
  • 上水道業: コア業種の分野以外のもの
  • 鉄道業: コア業種の分野以外のもの
  • ⽯油業: コア業種の分野以外のもの
  • 熱供給業
  • 放送業
  • 旅客運送
  • 生物学的製剤製造業
  • 警備業
  • 農林水産業
  • 皮革関連
  • 航空運輸
  • 海運

財務省資料をもとに当所にて作成

 

コア業種か、コア以外の指定業種かの区別は、特に、後述する一般免除(下記Q11)により、事前届出が免除となるか否かにおいて意味を持ちます。

 

なお、財務省は、上場企業のうちどの銘柄が指定業種事業(コア事業を含むか、コア事業以外のみかの別)を営んでいるか、あるいは指定業種以外を営んでいるかの区分について示した銘柄リストを作成し、改正法施行までに公表する予定です。約3800社の上場企業中400から500社の上場企業がいわゆるコア事業業種に該当するとの報道[2]がされており、注目されています。

 

Q7 届出の対象となる行為ですが、新たに事前届出の対象となったものはありますか。

従来から届出対象であった行為に加えて、

①外国投資家自らまたはその「関係者」(関係者についてはQ8参照)が役員に就任することについて、株主総会において同意すること

②指定業種に属する事業の譲渡・廃止を株主総会に自ら提案し、同意すること

が届出の対象行為となりました。これは、改正法26条2項5号における「会社の事業目的の実質的な変更その他会社の経営に重要な影響を与える事項として政令で定めるものに関し行う同意」(下線部が法改正部分)について、政令案によって明らかにされたところです。

 

①の役員就任議案については、会社提案によるものであっても、株主総会における同意は事前届出の対象となります。②の事業の譲渡・廃止議案は外国投資家自ら提案のもののみが届出対象となり、例えば会社提案などの場合は、事前届出は不要となります。

 

また、後述する免除(Q11)との関係で留意するべき点として、株式取得時の事前届出について免除を利用した外国投資家も、上記の2種の届出対象行為においては、免除は利用できず、届出義務を負います(改正法27条の2第1項、政令案3条の2第2項2号)。

 

その他に、③「上場会社等の議決権の1%以上の取得」(発行済株式総数ベースではなく、議決権ベースでの閾値以上の取得)、④「居住者からの事業の譲受け、吸収分割および合併による事業の承継」も、改正法で新たに届出の対象に加わっています(改正法26条2項4号、8号)。

 

Q8 「関係者」とは、どのような内容ですか。

Q7で述べた取締役・監査役の選任議案における候補者として、外国投資家と密接に関係している者を画する概念です。外国投資家自らが提案する場合には、その役員、使用人、主要な取引先が含まれ、他者(発行会社を含む)が提案する場合には、その役員が含まれます(省令案2条1項)。

なお、株式取得時の一般免除を受ける要件としての基準(Q12)における取締役・監査役への就任でも、同じ「関係者」の概念が用いられています。

 

Q9 外国投資家の範囲にどのような変更がありますか。

従来は、非居住者である個人または外国法人に直接50%以上保有されている日本の会社とその直接子会社が「外国投資家」とされていました。

 

「子会社」の概念について、省令案2条1項では、会社法上の子会社定義が用いられることになり、日本の会社とその会社法上の子会社が「外国投資家」とされました。会社法上の子会社の定義では、議決権保有割合が50%超でなくても、「子会社」となる場合があるため、従来外国投資家の範囲に含まれなかった子会社が今回の改正により外国投資家の範囲に含まれる事態が生じます。そのため、子会社の範囲に把握もれがないよう、注意が必要です。

 

Q10 投資組合(ファンド)については、どのような変更がありますか。

従来は、投資組合(ファンド)については、組合員である個々のGP(ジェネラル・パートナー)やLP(リミテッド・パートナー)について外国投資家であるかを判定し、外国投資家に該当するのであれば、その出資比率いかんにかかわらず、GPやLPが届出義務者となっていました。

 

今回の改正ではその枠組みを変え、「特定組合等」という新たな外国投資家のカテゴリーを設け、投資組合(ファンド)が「特定組合等」に該当するかを判定することとしました。すなわち、組合員中の外国投資家の出資比率が50%以上であるか、または、GPの過半数が外国投資家である場合には、当該ファンドが「特定組合等」にあたるという改正がなされます(改正法26条1項4号)。

 

なお、事前届出義務がある場合でも、届出免除制度が利用できる場合があることには、注意を要します。

 

Q11 届出の免除の制度が新設されるとのことですが、どんな内容ですか。

改正法は事前届出の対象行為を拡大し、また閾値を10%から1%に下げていますが、他方で、国の安全等にかかる対内直接投資等に該当するおそれが大きいものでない場合には、上場株式の取得時に事前届出を要しないとする免除の制度を新設しています(改正法27条の2の届出の特例)。

 

政省令案では、2種類の免除の制度が定められています。

ひとつめは、いわゆる包括免除であり、利用できる主体としては、いわゆる外国の金融機関(Q15参照)を想定しています。外国の金融機関による上場株式の取得は、取得持株の比率を問わず、また、コア業種であるか否かと問わず(p4表)、Q12に記載の基準を遵守するならば事前届出は免除となります。 (政令案3条の2第2項3号イ)。

 

ふたつめは、いわゆる一般免除であり、財務省の公表資料によれば、利用できる主体として、一般投資家や認証を受けたソブリン・ウェルス・ファンドや公的年金基金(SWF等)を予定しているとされています。SWF等については、財務省が、

①SWF等の投資形態が、純粋に経済的収益を目的としたものであること

②SWF等の投資の意思決定が、外国政府等から独立して行われること

を審査し、当該SWF等とMOU(覚書)(内容は非公表)を締結して、認証を付与する予定としています。

一般免除は、コア業種以外の指定業種の株式の取得では、Q12に記載の基準を遵守するならば事前届出が免除となるが、コア業種の株式取得では、Q12に記載の基準のほか、上乗せ基準も遵守する場合に、10%未満の株式取得について事前届出が免除となります。10%以上の取得は、免除対象とならず、審査付き事前届出の対象となります(政令案3条の2第2項3号ロ)。

 

Q12 免除を受けるための要件である基準と上乗せ基準は、どのような内容のものですか。

(1) 基準

包括免除・一般免除いずれの場合においても、事前届出が免除されるための要件として、告示案[3]で定められた以下の基準を遵守しなければならないとされています。

①外国投資家自らまたはその「関係者」が取締役または監査役に就任しない。

②指定業種に属する事業の譲渡または廃止を株主総会に、自ら提案しない。

③指定業種に属する事業に係る非公開の技術情報にアクセスしない。

 

(2) 上乗せ基準

Q11で述べたとおり、一般免除の場合で、コア業種に属する株式の1%以上10%未満の取得については、(1)の基準に加えて上乗せ基準を遵守する場合に事前届出が免除されます。上乗せ基準の内容は、次のとおりです[4]。

①コア業種に属する事業に関し、重要な意思決定権限を有する委員会に参加しないこと

②コア業種に属する事業に関し、取締役会等に期限を付して回答・行動を求めて書面で提案しないこと。

 

Q13 Q12にある基準③の「非公開の技術関連情報にアクセスしない」とは、どのような意味ですか。

正確には、秘密記述関連情報であることを知りながら、当該情報を取得すること(発行会社などからの自主的提供を除く)、秘密記述関連情報であることを知りながら、当該情報を開示することの提案、秘密記述関連情報の管理にかかる規程、契約等の変更の提案をいいます[5]。

 

「秘密記述関連情報」とは、発行会社等の指定業種に属する事業を営む部門において秘密として管理されている技術等をいいます。なお、役員等の就業条件や報酬等の情報、発行会社等の財務情報は、秘密記述関連情報には該当しません。

 

Q14 免除を受けられない外国投資家としては、どのような者がありますか。

外為法違反で処分を受けた者、外国政府、国有企業等は、届出の免除はされず、審査付き事前届出の対象となります(改正法27条の2、政令案3条の2第1項)。ただし、国有企業のうち認証を受けたSWFについては、上述(Q11)のとおり、一般免除の対象となります。

 

Q15 Q9にいう、いわゆる外国金融機関とは?

日本において業法で規制・監督、また外国において業法にもとづき規制・監督を受けている以下のものをいいます(省令案3条の2第3項)。

  • 第一種の金融商品取引業(証券会社)
  • 銀行業
  • 保険業
  • 投資運用業
  • 運用型信託業
  • 登録投資法人(会社型投資信託)
  • 金融商品取引法(金商法)上の高速取引行為者

 

Q16 事前届出をおこなった場合、審査の終了 (クリアランス)を待つことになりますが、どのような条件なら承認されるのかは明らかといえますか。

財務省によると、審査はもっぱら国の安全等に係る技術情報の流出や事業活動の喪失を防ぐという法の目的の観点から実施されるものであり、国の安全等の観点から問題のない行為については、審査通過を5営業日以内に通知する運用予定とされています。もっとも、詳しい審査のポイントは、現状明らかではありません。

 

Q17 アクティビストへの影響があるのではないでしょうか。

財務省は、「外為法改正案についてのよくある質問」[6]にて「今回の法改正は、健全な投資を一層促進しつつ、国の安全等に関わる技術情報の流出や事業活動の喪失といった事態を防止することが目的であり、アクティビスト封じが狙いではありません。(中略)もとより、企業価値の向上に資する株主の権利行使・企業との対話はコーポレート・ガバナンス強化の観点から歓迎されるものであり、法改正の目的に関係のない株主の権利行使・対話については、制限の追加は一切行いません。」としています。もっとも、Q12にて述べた基準や上乗せ基準は、アクティビストが一般に行使を主張する株主権の基本的な内容に関わっており、アクティビストに対する影響は大きいといえます。告示案がパブリックコメントの結果によって修正されるのか、施行後の届出内容の審査の運用やアクティビストの投資行動がどのようになるのかは、注目されます。

 

Q18 非上場会社の株式取得についての規制はどのようになりますか。

指定業種については、上場会社の株式取得と同様の整理になります。すなわち、投資先の会社が指定業種のうちコア事業を営んでいるなら、事前届出が必要になります。コア事業以外の指定業種を営んでいるなら、原則は事前届出となりますが、一般免除の基準(Q11)(すなわち、外国投資家またはその関係者が役員に就任しない、指定業種事業の譲渡廃止を自ら提案しない、指定業種事業にかかる非公開情報(秘密記述関連情報)にアクセスしない)を遵守するならば、事前届出が免除となります。

 

Q19 今後のスケジュールと新法の施行時期、新法の適用時期は、どのようになりますか。

政省令案、告示案が2020年3月14日に公表され、本ニュースレター公開の時点では、公表日から30日間(2020年04月12日まで)のパブリックコメントの募集期間が進行しています。財務省の公表資料によると、4月下旬に政令案の閣議決定と銘柄リスト(Q)の公表、4月下旬から5月上旬にかけて政省令と告示の公布が予定され、改正法の施行の日から施行になります。したがって、施行日は2020年5月29日までのいずれかの日となることが予定されています。

新法下のルールは、施行日から30日を経過した日以後に行う対内直接投資等に適用されることとされており(改正法附則3条)、施行期日以降、適用期日前に新法に基づく事前届出を可能とするよう、経過措置を設けることが検討されています。

 

おわりに

今回の外為法改正は、立案から成立そして施行までの期間が短く、まだ届出書の記載事項における変更の程度は明らかになっていません。また本文でも述べたように、銘柄リストの公表も今後行われる予定です。仮に予定どおりのスケジュールで施行・適用となった場合、実務の混乱の可能性は否定できず、また、運用にゆだねられている箇所の実務が定着するのに相当件数の届出実績を要するように思われます。外国投資家に該当する可能性のある投資家や企業としては、新ルールの概要を早めに理解し、株式の取得や、ポートフォリオへの役員選任対応、議決権対応について迅速な動きが可能になるよう、社内の外為法届出事務の体制・社外の相談体制を準備しておくことが必要となります。また、指定業種に該当し、銘柄リストに記載される日本企業は、届出書記載事項に関して、届出を準備する外国投資家からの照会にタイムリーに対応できるよう、上述の政令案、省令案、告示案の動向を注視していくことが必要になると考えます。

 

[1]本ニュースレター公開の時点で、パブリックコメント募集期間中(https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=395122004&Mode=0。本ニュースレター本文では、対内直接投資等に関する政令等の一部を改正する政令案、対内直接投資等に関する命令の一部を改正する命令案、命令第3条第4項又は第3条第1項及び第4条第3項の規定に基づき財務大臣等が定める業種告示案、命令第3条の2第2項又は第4条の3第1項の規定に基づき財務大臣等が定める業種告示案、対内直接投資等が国の安全等に係る対内直接投資等に該当しないための基準告示案、特定取得が国の安全に係る特定取得に該当しないための基準告示案を、それぞれ「政令案」、「省令案」、(個別に摘示する場合を除き、告示案を総称して)「告示案」と称する。

[2] 日本経済新聞2020年2月21日Web版、Nikkei Asian Review, February 21, 2020

[3] 外国為替及び外国貿易法第27条の2第1項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める対内直接投資等が国の安全等に係る対内直接投資等に該当しないための基準を定める件(案)2条1号から3号まで

[4]同2条4号

[5] 同2条3号

[6]https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/press_release/faq_191025.pdf

 

(2020年3月27日公開)

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本書において提供する情報は、あくまで一般的な情報として提供されるものであり、具体的な専門的アドバイスを提供するものではありません。また、本文中の意見にわたる部分は執筆担当者の個人的な見解にすぎず、事務所としての意見またはopinionを構成するものでもありません。具体的な事案に関するご相談には個別に対応いたしますので、改めて執筆担当の弁護士渡辺 直樹まで、お問い合わせください。

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法務:「2019年薬機法(医薬品医療機器等法)等改正案と企業に与える影響」5月11日更新版

Newsletter (2020年3月) │ 法務

I. はじめに

2019年3月19日、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出されました[1]。第198回通常国会での成立はならず、同年10月4日に開会した臨時国会において審議が継続して行われ、11月27日の参院本会議で可決され、成立、12月4日に公布されました(以下「改正薬機法」)。衆議院厚生労働委員会では14項目、参議院厚生労働委員会では11項目の附帯決議が採択されました。

今回の改正薬機法は、5年前に施行された改正薬事法の附則において、施行後5年を目処として改正後の規程等を検討することとされていたことを受けたもので、広い範囲での改正内容となっています。薬機法に関連する企業への規制強化の側面を含んでいるため、今後詳細が定められる省令等の動向を含め注視していきたいトピックです。

なお、改正薬機法の内容は、2018年4月より行われた厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会[2]における議論、薬事・食品衛生審議会血液事業部会[3]及び薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会[4]における議論と、同年12月25日に取りまとめられた「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」及び「薬剤師が本来の役割を果たし地域の患者を支援するための医薬分業の今後のあり方について」[5]を踏まえたものとなっています。

改正薬機法が公布されると、公布日から1年以内(但し、変更計画(PACMP)による製造方法等の変更手続きの導入、添付文書の電子的方法による提供、特定の機能を有する薬局の認定、ガバナンスに関する改正内容及び課徴金制度については2年以内、バーコード等の表示については3年以内)に施行されます。

(2020年3月11日追記)「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和2年3月11日政令第39号)」(2020年3月11日公布)により、施行期日は、それぞれ、2020年9月1日(覚せい剤原料に関する改正は2020年4月1日)、2021年8月1日、2022年12月1日とされました。

本レターでは、当該改正薬機法の内容と、当該改正が企業に与える影響について紹介します。

II. 改正薬機法の内容

改正薬機法の内容は、1. 医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善、2. 住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し、3. 信頼確保のための法令遵守体制等の整備、4. その他、の4つの大項目から成ります。

 

1.医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善

「医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善」の内容として、(1)「先駆け審査指定制度」の法制化、(2)「条件付早期承認制度」の法制化、(3)変更計画(PACMP)による製造方法等の変更手続きの導入、(4)改良が見込まれている医療機器の継続した改良を可能とする承認審査制度の導入、(5)添付文書の電子的な方法による提供の原則化、(6)医薬品等の包装等へのバーコード等の表示の義務付け、(7)国際整合化に向けたGMP/GCTP調査に見直し、(8)安全供給の確保に向けたQMS調査の見直し等が盛り込まれています。

先駆け指定審査医薬品等は現行法においても運用で優先審査等の対象として扱われていますが、今回の改正では、「先駆的医薬品等」と「特定用途医薬品等」について、法律上の要件を定め、優先審査等の対象となる旨が法律上明確化されます。また、「条件付早期承認制度」についても現行法においても運用が開始されているところ、検証的臨床研究のデータを添付せずに承認申請を行うことができる旨を法律上明確に定めることとなります。また、変更計画(PACMP)による製造方法等の変更手続きの導入により変更手続きの短縮化が見込まれます。

製薬メーカー、医療機器メーカー、再生医療等製品メーカーにおいては、上記の制度を戦略的に利用して開発、承認申請、市販後の変更手続き等を促進していくことが望まれます。

また、(5)添付文書の電子的な方法による提供及び(6)医薬品等の包装等へのバーコード等の表示については、施行までにこれらの項目に対応したオペレーションを構築することが求められます。

 

2.住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し

「住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し」の内容としては、(1)薬剤師が、調剤時に限らず、必要に応じて患者の薬剤の使用状況の把握や服薬指導を行う義務及び患者の薬剤の使用に関する情報を他医療提供施設の医師等に提供する努力義務の法制化、(2)地域連携薬局、専門医療機関連携薬局の認定制度の導入、(3)テレビ電話等による服薬指導の規定、等が盛り込まれています。

薬局事業を営む企業は、(1)の改正により、薬局開設者に、薬剤師の情報提供への配慮義務や薬剤師に対して購入者等の使用状況の把握、購入者等への情報提供・指導及び情報提供・指導内容の記録をさせる等の義務が課せられる点に注意が必要です。また、今後詳細が固められていくこととなる、(2)や(3)といった新たな制度の活用可能性を検討することも考えられます。

(3)のテレビ電話等による服薬指導については、既に特区において国家戦略特別区域法第 20 条の5に規定する国家戦略特別区域処方箋薬剤遠隔指導事業が行われてきました。今回の改正では、そのような薬剤遠隔指導の要件を明確化し特区以外の地域にこれを拡大していくことが見込まれています。薬局がテレビ電話等による遠隔での服薬指導を行う場合には明確化される要件を注視し対応していくことが必要です。

(2020年5月11日追記)なお、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則等の一部を改正する省令案(仮称)の概要」[6]及び「オンライン服薬指導に関する施行通知(仮称)の要旨」[7]が2019年12月19日付で公表され意見募集(パブリックコメント)の手続きに付され、それぞれ2020年3月27日付、3月30日付で意見募集結果が公示[8][9]、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則等の一部を改正する省令(令和2年3月27日厚生労働省令第52号)[10]、及び、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行について(オンライン服薬指導関係)」(令和2年3月31日薬生発0331第36号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)[11]が出されています。

 

3.信頼確保のための法令遵守体制等の整備

「信頼確保のための法令遵守体制等の整備」の内容として、(1)薬機法の許可等業者に対する法令遵守体制の整備の義務付け、(2)虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設、(3)国内未承認の医薬品等の輸入に係る確認制度の法制化、麻薬取締官等による捜査対象化、(4)医薬品として用いる覚せい剤原料について、医薬品として用いる麻薬と同様、自己の治療目的の携行輸入等の許可制度を導入、等が盛り込まれています。ここでは、企業に与える影響の大きい(1)と(2)の改正内容について取り上げます。

 

(1)薬機法の許可等業者に対する法令遵守体制の整備の義務付け

医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の製造販売業者、製造業者、薬局、店舗販売業者、配置販売業者、卸売販売業者、採血事業者、高度管理医療機器等の販売業者・貸与業者、修理業者のガバナンスに関係する改正内容であり、企業にとってインパクトのある改正内容となっています。

ア 責任役員

薬事に関する業務に責任を有する役員を法律上位置づけ、許可申請書に記載することが求められます。「薬事に関する業務に責任を有する役員」とは、株式会社においては、取締役を意味し、執行役員は含まれないとされています。なお、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会では当局による責任役員の変更命令権が議論されていましたが、業界による反対もあり、今回の改正薬機法の内容に含めることは見送られています。もっとも2019年11月13日に衆院厚生労働委員会により採択された附帯決議及び11月26日に参院厚生労働委員会により採択された附帯決議には、「役員変更命令の法定化について、本法の施行状況を踏まえ検討を行う」という項目が含まれたため、将来的に役員変更命令の法制化が再度議論される余地が残りました。

イ 法令遵守体制の整備

改正薬機法では、医薬品、医薬部外品又は化粧品の製造販売業者・製造業者に対し、「…業務を適正に遂行することにより、薬事に関する法令の規定の遵守を確保するために」以下の措置を講じる義務、及び措置の内容を記録しこれを適切に保存する義務が追加されます。

  • 品質管理及び製造販売後安全管理に関する業務(製造業者においては製造の管理に関する業務)について、医薬品等総括製造販売責任者(製造業者においては医薬品製造管理者又は医薬部外品等責任技術者)が有する権限を明らかにすること
  • 品質管理及び製造販売後安全管理に関する業務(製造業者においては製造の管理に関する業務)その他の製造販売業者(製造業者)の業務の遂行が法令に適合することを確保するための体制、当該製造販売業者(製造業者)の薬事に関する業務に責任を有する役員及び従業員の業務の監督に係る体制その他の製造販売業者(製造業者)の業務の適正を確保するために必要なものとして厚生労働省令で定める体制を整備すること
  • 医薬品等総括製造販売責任者(製造業者においては医薬品製造管理者、医薬部外品等責任技術者)その他の厚生労働省令で定める者に、第12条の2第1項各号(製造業者においては第14条2項4号)の厚生労働省令で定める基準を遵守して医薬品等の品質管理及び製造販売後安全管理(製造業者においては製造管理又は品質管理)を行わせるために必要な権限の付与及びそれらの者が行う業務の監督その他の措置
  • その他従業員に対して法令遵守のための指針を示すことその他の業務の適正な遂行に必要なものとして厚生労働省令で定める措置

また、これまでの総括製造販売責任者・製造管理者の意見の尊重義務に加え、これらの者として必要な能力及び経験を有する者をおかなければならないとの規定が追加されるとともに、法令遵守のために措置を講ずる必要があるときは、当該措置を講じ、かつ、講じた措置の内容(措置を講じない場合にあっては、その旨及びその理由)を記録し、これを適切に保存する義務が設けられます。これまでに記録・保存の社内プロセスの整備されていない企業は対応が必要になる事項です。

 

<法令遵守体制の整備の全体像>

医療機器・再生医療等製品の製造販売業者・製造業者や薬局、店舗販売業者、配置販売業者、卸売販売業者、採血事業者、高度管理医療機器等の販売業者・貸与業者、修理業者についても、改正薬機法において、同様に法令遵守体制の整備に関する規定がおかれています。

企業においては、自社の薬機法遵守の観点からの法令遵守体制の見直しが求められるでしょう。具体的な内容については今後厚生労働省令、施行規則、通知等で定められることになるため注視していくことが必要ですが、基本的には会社法上の内部統制(と金融商品取引法に基づく内部統制(財務報告に係る内部統制))の考え方を参考に、①ルールを決める、②決めたルールを伝達・教育する、③ルールに従って仕事を行い、それを記録化する、④記録を他者が監督する、というステップで薬機法遵守の体制を整備していくことが求められていくのではないかと考えられます。具体的には、企業行動規範の策定(見直し)や公表、薬事に関する法令遵守の重要性についてのトップによるメッセージ、組織図・社内規程・手順書・記録の保存のルール・内部通報制度等の見直し、適切な社内トレーニング等を行っていくことを検討することが考えられます。また、ヘルスケア事業を行う企業の買収等を行う際には、デューデリジェンスの中で、これまで以上に薬事に関する法令の遵守体制についても検討が必要になると思われます。

 

(2)虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設

薬機法改正薬機法における課徴金制度は、一連の研究不正の事件を受けて今回新たに導入されるもので、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品(併せて「医薬品等」)の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する虚偽・誇大広告を行った期間に取引をした対象医薬品等の対価の合計額に4.5%をかけた金額が課徴金額となることが定められています。なお、景品表示法の課徴金の計算に使われる%が3%であるのに対し、薬機法の課徴金が4.5%であるのは、ヘルスケア企業の営業利益率を勘案してのものとされています[8]

[8] 第200回国会 厚生労働委員会 第5号(令和元年11月13日(水曜日))議事録

この課徴金制度には景品表示法による優良誤認表示に該当する場合や許可・登録等の取消し、改善措置命令等を受ける場合の調整規定が定められており、独占禁止法や金融商品取引法等が課徴金の義務的賦課制度を採用しているのと異なり、課徴金納付命令を行わないことができる場合が定められていることが特徴的です。また自主申告の場合の減免制度も設けられています。なお、虚偽・誇大広告をやめてから5年を経過している行為や対価合計額が5000万円未満の場合については課徴金を課されないこととされています。

医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインの施行等、ヘルスケア業界における広告規制や当局の監視は年々厳しくなっているといえます。企業としては、広告の監視体制を益々強化していくことが求められます。

4.その他

「その他」の改正内容として、(1)医薬品等の安全性の確保や危害の発生防止等に関する施策の実施状況を評価・監視する医薬品等行政評価・監視委員会の設置、(2)科学技術の発展等を踏まえた採血の制限の緩和、等が盛り込まれています。

(1)については、薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会により2010年4月28日にとりまとめられた「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」[9]を踏まえて設置されるものです。

(2)については、安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律[10](「血液法」)を改正することによって、「医薬品等の研究開発において試験に用いる物その他の医療の質又は保険衛生の向上に資する物」について、採血制限を緩和する等、医療の発展に寄与する採血を認める内容です。現状、例えば、医薬品等の開発において、候補物質の有効性、毒性などの評価に用いられるiPS心筋細胞等の血液由来特定研究用具、医学的検査の標準品が「医薬品等の研究開発において試験に用いる物その他の医療の質又は保険衛生の向上に資する物」として挙げられていますが、企業の研究開発に資する内容と考えられ、具体的な「物」の特定を引き続き注視していきたいところです。また、血液法の改正により、血液製剤の原料たる原料血漿を製造した製造業者、血液製剤を製造した製造業者は、新たに血液製剤の製造販売業者に対し、安全性情報を提供する義務が法定されることに注意が必要です。

 

5.まとめ

以上みてきたように、今回の薬機法改正薬機法はその対象が多岐にわたることから、今後制定されていくこととなる施行令や施行規則等を含めて引き続き議論の動向を注視し、これに対応していく必要があります。

(2019年11月28日(2019年12月9日、2020年3月11日、2020年5月11日更新))

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本書において提供する情報は、あくまで一般的な情報として提供されるものであり、具体的な専門的アドバイスを提供するものではありません。具体的な事案に関するご相談には個別に対応いたしますので改めて担当弁護士(根本鮎子))までお問い合わせください。

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知財: 2020年3月号「中国における新型コロナウイルスによる肺炎の流行に伴う専利関連権利の権利回復に関する規定」

Newsletter (2020年3月) │ 知財

新型コロナウイルスによる肺炎が発生以来、色々な分野に深刻な影響を与えている。知的財産権分野においても疫病による権利の喪失とその回復の問題が注目されつつある問題の一つである。

そこで、国家知識産権局は2020年1月28日に「新型コロナウイルスによる肺炎の流行期間における専利、商標、集積回路配置設計の関連期限事項に関する説明」(即ち、公告第350号)、2月3日に「疫病に関連する権利回復手続きの具体的問題への回答」、2月21日に「新型コロナウイルスによる肺炎の流行期間における専利、商標、集積回路配置設計の関連期限事項に関する補足説明」、3月4日に「新型コロナウイルスによる肺炎の流行期間における専利年金の滞納金の納付関連事項に関する説明」など一連の公告や通知が公布され、新型コロナウイルスによる肺炎の流行に伴い関連期間の規定や、権利回復の手続き、費用の納付等について説明を行っている。

本文では新型コロナウイルスによる肺炎の流行による喪失された専利関連権利の権利回復について纏めてみた。今後、感染状況に伴い、国や政府各部門から更なる関連政策や規定等打ち出される可能性もあるため、自社に不利益を被らないためにこれらの情報を迅速に取得する必要がある。そして、権利の喪失のリスクを避けるために、事前に現地の代理人に、権利の継続を維持する措置を取る様に今からでも指示しておくことをお薦めする。

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法務:「2019年薬機法(医薬品医療機器等法)等改正案と企業に与える影響」

Newsletter (2019年11月) │ 法務

5月11日追記版はこちら

 

I. はじめに

2019年3月19日、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出されました[1]。第198回通常国会での成立はならず、同年10月4日に開会した臨時国会において審議が継続して行われ、11月27日の参院本会議で可決され、成立、12月4日に公布されました(以下「改正薬機法」)。衆議院厚生労働委員会では14項目、参議院厚生労働委員会では11項目の附帯決議が採択されました。

今回の改正薬機法は、5年前に施行された改正薬事法の附則において、施行後5年を目処として改正後の規程等を検討することとされていたことを受けたもので、広い範囲での改正内容となっています。薬機法に関連する企業への規制強化の側面を含んでいるため、今後詳細が定められる省令等の動向を含め注視していきたいトピックです。

なお、改正薬機法の内容は、2018年4月より行われた厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会[2]における議論、薬事・食品衛生審議会血液事業部会[3]及び薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会[4]における議論と、同年12月25日に取りまとめられた「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」及び「薬剤師が本来の役割を果たし地域の患者を支援するための医薬分業の今後のあり方について」[5]を踏まえたものとなっています。

改正薬機法が公布されると、公布日から1年以内(但し、変更計画(PACMP)による製造方法等の変更手続きの導入、添付文書の電子的方法による提供、特定の機能を有する薬局の認定、ガバナンスに関する改正内容及び課徴金制度については2年以内、バーコード等の表示については3年以内)に施行されます。

本レターでは、当該改正薬機法の内容と、当該改正が企業に与える影響について紹介します。

II. 改正薬機法の内容

改正薬機法の内容は、1. 医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善、2. 住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し、3. 信頼確保のための法令遵守体制等の整備、4. その他、の4つの大項目から成ります。

 

1.医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善

「医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善」の内容として、(1)「先駆け審査指定制度」の法制化、(2)「条件付早期承認制度」の法制化、(3)変更計画(PACMP)による製造方法等の変更手続きの導入、(4)改良が見込まれている医療機器の継続した改良を可能とする承認審査制度の導入、(5)添付文書の電子的な方法による提供の原則化、(6)医薬品等の包装等へのバーコード等の表示の義務付け、(7)国際整合化に向けたGMP/GCTP調査に見直し、(8)安全供給の確保に向けたQMS調査の見直し等が盛り込まれています。

先駆け指定審査医薬品等は現行法においても運用で優先審査等の対象として扱われていますが、今回の改正では、「先駆的医薬品等」と「特定用途医薬品等」について、法律上の要件を定め、優先審査等の対象となる旨が法律上明確化されます。また、「条件付早期承認制度」についても現行法においても運用が開始されているところ、検証的臨床研究のデータを添付せずに承認申請を行うことができる旨を法律上明確に定めることとなります。また、変更計画(PACMP)による製造方法等の変更手続きの導入により変更手続きの短縮化が見込まれます。

製薬メーカー、医療機器メーカー、再生医療等製品メーカーにおいては、上記の制度を戦略的に利用して開発、承認申請、市販後の変更手続き等を促進していくことが望まれます。

また、(5)添付文書の電子的な方法による提供及び(6)医薬品等の包装等へのバーコード等の表示については、施行までにこれらの項目に対応したオペレーションを構築することが求められます。

 

2.住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し

「住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し」の内容としては、(1)薬剤師が、調剤時に限らず、必要に応じて患者の薬剤の使用状況の把握や服薬指導を行う義務及び患者の薬剤の使用に関する情報を他医療提供施設の医師等に提供する努力義務の法制化、(2)地域連携薬局、専門医療機関連携薬局の認定制度の導入、(3)テレビ電話等による服薬指導の規定、等が盛り込まれています。

薬局事業を営む企業は、(1)の改正により、薬局開設者に、薬剤師の情報提供への配慮義務や薬剤師に対して購入者等の使用状況の把握、購入者等への情報提供・指導及び情報提供・指導内容の記録をさせる等の義務が課せられる点に注意が必要です。また、今後詳細が固められていくこととなる、(2)や(3)といった新たな制度の活用可能性を検討することも考えられます。

(3)のテレビ電話等による服薬指導については、既に特区において国家戦略特別区域法第 20 条の5に規定する国家戦略特別区域処方箋薬剤遠隔指導事業が行われてきました。今回の改正では、そのような薬剤遠隔指導の要件を明確化し特区以外の地域にこれを拡大していくことが見込まれています。薬局がテレビ電話等による遠隔での服薬指導を行う場合には明確化される要件を注視し対応していくことが必要です。

 

3.信頼確保のための法令遵守体制等の整備

「信頼確保のための法令遵守体制等の整備」の内容として、(1)薬機法の許可等業者に対する法令遵守体制の整備の義務付け、(2)虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設、(3)国内未承認の医薬品等の輸入に係る確認制度の法制化、麻薬取締官等による捜査対象化、(4)医薬品として用いる覚せい剤原料について、医薬品として用いる麻薬と同様、自己の治療目的の携行輸入等の許可制度を導入、等が盛り込まれています。ここでは、企業に与える影響の大きい(1)と(2)の改正内容について取り上げます。

 

(1)薬機法の許可等業者に対する法令遵守体制の整備の義務付け

医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の製造販売業者、製造業者、薬局、店舗販売業者、配置販売業者、卸売販売業者、採血事業者、高度管理医療機器等の販売業者・貸与業者、賃貸業者、修理業者のガバナンスに関係する改正内容であり、企業にとってインパクトのある改正内容となっています。

ア 責任役員

薬事に関する業務に責任を有する役員を法律上位置づけ、許可申請書に記載することが求められます。「薬事に関する業務に責任を有する役員」とは、株式会社においては、取締役を意味し、執行役員は含まれないとされています。なお、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会では当局による責任役員の変更命令権が議論されていましたが、業界による反対もあり、今回の改正薬機法の内容に含めることは見送られています。もっとも2019年11月13日に衆院厚生労働委員会により採択された附帯決議及び11月26日に参院厚生労働委員会により採択された附帯決議には、「役員変更命令の法定化について、本法の施行状況を踏まえ検討を行う」という項目が含まれたため、将来的に役員変更命令の法制化が再度議論される余地が残りました。

イ 法令遵守体制の整備

改正薬機法では、医薬品、医薬部外品又は化粧品の製造販売業者・製造業者に対し、「…業務を適正に遂行することにより、薬事に関する法令の規定の遵守を確保するために」以下の措置を講じる義務、及び措置の内容を記録しこれを適切に保存する義務が追加されます。

  • 品質管理及び製造販売後安全管理に関する業務(製造業者においては製造の管理に関する業務)について、医薬品等総括製造販売責任者(製造業者においては医薬品製造管理者又は医薬部外品等責任技術者)が有する権限を明らかにすること
  • 品質管理及び製造販売後安全管理に関する業務(製造業者においては製造の管理に関する業務)その他の製造販売業者(製造業者)の業務の遂行が法令に適合することを確保するための体制、当該製造販売業者(製造業者)の薬事に関する業務に責任を有する役員及び従業員の業務の監督に係る体制その他の製造販売業者(製造業者)の業務の適正を確保するために必要なものとして厚生労働省令で定める体制を整備すること
  • 医薬品等総括製造販売責任者(製造業者においては医薬品製造管理者、医薬部外品等責任技術者)その他の厚生労働省令で定める者に、第12条の2第1項各号(製造業者においては第14条2項4号)の厚生労働省令で定める基準を遵守して医薬品等の品質管理及び製造販売後安全管理(製造業者においては製造管理又は品質管理)を行わせるために必要な権限の付与及びそれらの者が行う業務の監督その他の措置
  • その他従業員に対して法令遵守のための指針を示すことその他の業務の適正な遂行に必要なものとして厚生労働省令で定める措置

また、これまでの総括製造販売責任者・製造管理者の意見の尊重義務に加え、これらの者として必要な能力及び経験を有する者をおかなければならないとの規定が追加されるとともに、法令遵守のために措置を講ずる必要があるときは、当該措置を講じ、かつ、講じた措置の内容(措置を講じない場合にあっては、その旨及びその理由)を記録し、これを適切に保存する義務が設けられます。これまでに記録・保存の社内プロセスの整備されていない企業は対応が必要になる事項です。

 

<法令遵守体制の整備の全体像>

医療機器・再生医療等製品の製造販売業者・製造業者や薬局、店舗販売業者、配置販売業者、卸売販売業者、採血事業者、高度管理医療機器等の販売業者・貸与業者、賃貸業者、修理業者についても、改正薬機法において、同様に法令遵守体制の整備に関する規定がおかれています。

企業においては、自社の薬機法遵守の観点からの法令遵守体制の見直しが求められるでしょう。具体的な内容については今後厚生労働省令、施行規則、通知等で定められることになるため注視していくことが必要ですが、基本的には会社法上の内部統制(と金融商品取引法に基づく内部統制(財務報告に係る内部統制))の考え方を参考に、①ルールを決める、②決めたルールを伝達・教育する、③ルールに従って仕事を行い、それを記録化する、④記録を他者が監督する、というステップで薬機法遵守の体制を整備していくことが求められていくのではないかと考えられます。具体的には、企業行動規範の策定(見直し)や公表、薬事に関する法令遵守の重要性についてのトップによるメッセージ、組織図・社内規程・手順書・記録の保存のルール・内部通報制度等の見直し、適切な社内トレーニング等を行っていくことを検討することが考えられます。また、ヘルスケア事業を行う企業の買収等を行う際には、デューデリジェンスの中で、これまで以上に薬事に関する法令の遵守体制についても検討が必要になると思われます。

 

(2)虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設

薬機法改正薬機法における課徴金制度は、一連の研究不正の事件を受けて今回新たに導入されるもので、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品(併せて「医薬品等」)の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する虚偽・誇大広告を行った期間に取引をした対象医薬品等の対価の合計額に4.5%をかけた金額が課徴金額となることが定められています。なお、景品表示法の課徴金の計算に使われる%が3%であるのに対し、薬機法の課徴金が4.5%であるのは、ヘルスケア企業の営業利益率を勘案してのものとされています[6]

[6] 第200回国会 厚生労働委員会 第5号(令和元年11月13日(水曜日))議事録

この課徴金制度には景品表示法による優良誤認表示に該当する場合や許可・登録等の取消し、改善措置命令等を受ける場合の調整規定が定められており、独占禁止法や金融商品取引法等が課徴金の義務的賦課制度を採用しているのと異なり、課徴金納付命令を行わないことができる場合が定められていることが特徴的です。また自主申告の場合の減免制度も設けられています。なお、虚偽・誇大広告をやめてから5年を経過している行為や対価合計額が5000万円未満の場合については課徴金を課されないこととされています。

医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインの施行等、ヘルスケア業界における広告規制や当局の監視は年々厳しくなっているといえます。企業としては、広告の監視体制を益々強化していくことが求められます。

4.その他

「その他」の改正内容として、(1)医薬品等の安全性の確保や危害の発生防止等に関する施策の実施状況を評価・監視する医薬品等行政評価・監視委員会の設置、(2)科学技術の発展等を踏まえた採血の制限の緩和、等が盛り込まれています。

(1)については、薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会により2010年4月28日にとりまとめられた「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」[7]を踏まえて設置されるものです。

(2)については、安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律[8](「血液法」)を改正することによって、「医薬品等の研究開発において試験に用いる物その他の医療の質又は保険衛生の向上に資する物」について、採血制限を緩和する等、医療の発展に寄与する採血を認める内容です。現状、例えば、医薬品等の開発において、候補物質の有効性、毒性などの評価に用いられるiPS心筋細胞等の血液由来特定研究用具、医学的検査の標準品が「医薬品等の研究開発において試験に用いる物その他の医療の質又は保険衛生の向上に資する物」として挙げられていますが、企業の研究開発に資する内容と考えられ、具体的な「物」の特定を引き続き注視していきたいところです。また、血液法の改正により、血液製剤の原料たる原料血漿を製造した製造業者、血液製剤を製造した製造業者は、新たに血液製剤の製造販売業者に対し、安全性情報を提供する義務が法定されることに注意が必要です。

 

5.まとめ

以上みてきたように、今回の薬機法改正薬機法はその対象が多岐にわたることから、今後制定されていくこととなる施行令や施行規則等を含めて引き続き議論の動向を注視し、これに対応していく必要があります。

(2019年11月28日(12月9日更新)

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ゾンデルホフ&アインゼル法律特許事務所では、薬機法(医薬品医療機器等法)を始めとするヘルスケア関連規制に関するアドバイス、契約作成・交渉・修正業務、研修、当局・紛争訴訟対応等、関連する法務アドバイスを日常的に提供しています。

 

本書において提供する情報は、あくまで一般的な情報として提供されるものであり、具体的な専門的アドバイスを提供するものではありません。具体的な事案に関するご相談には個別に対応いたしますので改めて担当弁護士(根本鮎子))までお問い合わせください。

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知財: 2019年8月号「台湾の医薬品パテントリンケージ制度に関する最新情報」

Newsletter (2019年8月) │ 知財

今般の台湾薬事法の改正により増設された医薬品のパテントリンケージ制度が下記の通り正式に施行されることになりました。また、パテントリンケージ制度を実施するための施行規則及び詳細な手続きの策定も進められており、それらの最新情報についてご報告いたします。

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知財:2019年6月号「損害額の算定方法に関する判断基準についての知財高裁大合議判決」

Newsletter (2019年6月) │ 知財

IPニュースレター2019年6月号『損害額の算定方法に関する判断基準についての知財高裁大合議判決』が発行されました。

 

判決年月日:令和元年6月7日
事件番号:平成30年(ネ)第10063号
担当部:知財高裁大合議(裁判長・高部真規子所長)

 

 現行特許法によれば、特許権の侵害による損害額の立証が困難であることから 、侵害者が侵害品から得た利益を損害額として推定できる旨が規定されています(102条2項)。この「利益」とは「限界利益」と解されており、侵害品の売り上げから、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除し、他方、推定を覆滅する事情としての侵害者側の営業努力や、侵害品の性能などを勘案して賠償額が決められます。
本件では、化粧品の特許侵害を巡り、特許権者である化粧品メーカーが侵害者に対して損害賠償を請求しており、侵害者が支払う賠償金の減額が認められるかなどが争われていました。

 

詳細は、こちらをご覧ください。

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