中国の復審・無効審判事例トップ10(2023年度)のお知らせ

2024年4月26日、中国国家知識産権局は、知識産権宣伝ウィーク中(2024年4月20日~2024年4月26日)に、2023年度の復審・無効審判事例のトップ10として、特許無効事例7件、実用新案無効審判事例1件、意匠無効審判事例1件、および特許の復審事例1件を公表した。これらの事例は、リチウムイオン電池、遺伝子工学等先端技術分野に関わり、標準必須特許、抵触判断、優先権認定、人工知能の発明者登録可否など典型的法律問題について解釈した。
復審・無効審判事例のトップ10(2023年度)の概要は以下の通りである。

1. 名称:制御信号送信方法及び装置
種類:特許権無効審判事例
専利番号:ZL201110269715.3
審決番号:審決第562606号
専利権者:華為技術有限公司
請求人:小米通訊技術有限公司
結論:特許権の有効性が維持された。
意義:本事例は、通信分野における標準必須特許に関わるものであり、進歩性の審査において請求項における関連技術特徴に対する全体的な判断や、従来技術との組み合わせの技術示唆に対する判断に典型的な意義を有する。

2.名称:安全なリチウムイオン電池セル及び安全なリチウムイオン電池パック
種類:特許権無効審判事例
専利番号:ZL200610072849.5
審決番号:審決第563221号
専利権者:北京億馬先鋒汽車科技有限公司
請求人:深圳市比克電池有限公司
結論:特許権が無効にされた。
意義:本事例は、パラメータの技術特徴を有するリチウム電池分野における特許明細書が十分に開示されているか否かを正確に把握する上で例示的な効果を有する。

3.名称:ポリウレタン研磨パッド
種類:特許権無効審判事例
専利番号:ZL201410448504.X
審決番号:審決第564483号
専利権者:ローム・アンド・ハース電子材料株式会社、ダウグローバル テクノロジーズ LLC
請求人:王維秀氏
結論:特許権の有効性が維持された。
意義:本事例は化学配合成分と物理的性能のパラメータによって限定される機械製品の請求項について、審決は、従来技術に対する実際の貢献を正確に判断するために、如何に明細書に開示された内容に基づいて特許保護の範囲を客観的に認定するかの方法を解釈した。

4.名称:有効成分の放出を制御できる分割可能なガレノス製剤形態
種類:特許権無効審判事例
専利番号:ZL200810213769.6
審決番号:審決第59745号
専利権者:セルヴィエ製薬会社
請求人:劉奇
結論:特許権が全部無効にされた。
意義:本事例は、立証責任、証拠の形式要件、実体要件から多角的に証拠規則を説明し、従来技術における否定的な記述が技術的障害を構成するか否かを判断するための判断基準を示した。

5.名称:配列操作のための系、方法および最適化ガイド組成物のエンジニアリング
種類:特許権無効審判事例
専利番号:ZL201380070567.X
審決番号:審決第563732号
専利権者:ブロード研究所有限公司ほか
請求人:株式会社ToolGen
結論:特許権が部分無効にされた。
意義:本事例では、PCT出願の一部の出願人が変更された場合、後願が優先権を享受できるか否かの審理の基準について議論された。

6.名称:ポリ(アリールエーテル)共重合体
種類:特許権無効審判事例
専利番号:ZL200680046261.0
審決番号:審決第560904号
専利権者:ハイテックスペシャルエンジニアリングプラスチックグローバルテクニカル有限公司
請求人:河北健馨生物科技有限公司
結論:特許権の有効性が維持された。
意義:本事例では、化学分野のパラメータの技術特徴が従来技術に開示されているか否かを判断する典型的な事例であり、無効審判において、権利化プロセスにおける特許権者の意見を如何に考慮するかが解説された。

7.名称:複合加飾パネル
種類:実用新案権無効審判事例
専利番号:ZL201920768950.7
審決番号:審決第563521号
専利権者:譚校鋒氏
請求人:梁成金氏
結論:実用新案件が無効にされた。
意義:本事例では、新たな証拠を総合的に分析し、「有効な判決により認定された事実を覆すに足りる場合の反する証拠」の適用を解釈した。

8.名称:高速ダウンリングパケットアクセスのための追加の変調情報シグナリング
種類:特許権無効審判事例
専利番号:ZL200780048958.6
審決番号:審決第56283号
専利権者:ノキアテクノロジー有限公司
請求人:OPPO広東移動通信有限公司
結論:特許権が無効にされた。
意義:本事例は、優先権の認定において「同一の主題」の判断をめぐるものであり、審決に優先権基礎となる先願における技術内容の記載要件について解釈された。

9.名称:スポーツシューズ
種類:意匠権無効審判事例
専利番号:ZL201930327108.5
審決番号:審決第563861号
専利権者:喬丹体育股份有限公司
請求人:プーマ欧州有限責任会社
結論:意匠権の有効性が維持された。
意義:本事例では、合議体は意匠権と先行商標権との抵触の判断要素と判断方法を示し、先行商標権者の正当な権益を保護しつつ、拡張解釈によって意匠の正当な権利を損なうことはできないことを強調した。

10.名称:食品容器及び器具並びに注意喚起及び増進のための方法
種類:特許出願復審事例
出願番号:CN201980006158.0
審決番号:審決第1373038号
出願人:DABUS, Stephen L. Taylor
結論:拒絶査定が維持された。
意義:本事例では、民法の基本原則に基づき、発明者制度の立法目的を解釈し、「人工知能が発明者として登録できるか否か」という問題について、人工知能が民法に規定されている民事主体に該当しておらず、民事権利の行使と義務の履行ができないため、行政プロセスにおいて発明者として認定できないという中国初の審決が下された。

2010年以来、中国国家知識産権局は、審理された復審・無効審判事例の中から、年度の事例トップ10件を選定・公表してきた。典型的事例を通して、審査基準を解釈し、知的財産権の保護の強化に積極的な役割を果たし、良好なイノベーションとビジネス環境の構築に貢献してきた。

2023年度中国法院知的財産権司法保護の全体状況の概要及び 中国法院知的財産権事件トップ10

2024年度の中国知的財産権宣伝ウィークは「質の高い発展を促進するための知的財産権の転化と運用」がテーマとされ、4月20日から4月26日までの間に国家知識産権局、中央委員会宣伝部、国家市場監督管理総局の主導で18の部門の共同で開催された。
知的財産権宣伝ウィーク中に中国最高人民法院は、2023年度の知的財産権司法保護の全体状況及び2023年度の全国法院知的財産権事件トップ10、知的財産権典型的事件50件を、中国最高人民検察院は「知的財産権検察白書(2021-2023)」と知的財産権検察保護典型的事件を、中国農業農村部は、2023年度の植物新品種保護の典型的事件トップ10を、中国税関総署は、2023年度の中国税関知的財産保護状況と典型的事件を、中国国家市場監督管理総局は、2023年度の知的財産権法執行の典型的事件を、中国国家知識産権局は、2023年度の知的財産権行政保護、専利復審無効審判、商標異議申立の典型的事件をそれぞれ発表した。
本文では、2023年度の中国法院知的財産権司法保護の全体状況と2023年度の知的財産権事件トップ10の概要をご紹介する。

一.2023年度の中国法院知的財産権司法保護の全体状況の概要

2023年、人民法院は「公正と効率」をテーマに重点を置き、法に基づいて司法機能を発揮し、知的財産権を確実に保護し、年間を通じて544,126件の知的財産関連事件を受理し、そのうち、544,112件を終結した。革新と創造を促進し、公正な競争を維持し、知的財産権の転化を効果的に促進し、中国式近代化を強力に支持してきた。2023年全国法院知的財産権事件の主なデータは図1~3の通りである。

二.2023年度中国法院知的財産権事件トップ10
専利関連事件が1件、商標関連事件が2件、著作権関連事件が2件、植物新品種関連事件が1件、不正競争関連事件が6件(重複関連)を含めた2023年度中国法院知的財産権事件トップ10の概要は以下の通りである。

1.「SIEMENS」等商標権侵害及び不正競争事件
判決番号:最高人民法院(2022)最高法民終312号
意義:
本事件の第二審では、証拠妨害規則(注:「最高人民法院による民事訴訟の証拠に関する若干の規定」第95条により、一方当事者が証拠を管理しているにもかかわらず正当な理由なくその提出を拒否し、かつ要証事実について立証責任を負う当事者が、当該証拠の内容が証拠管理者に不利であると主張した場合、人民法院は当該主張が成立すると認定することができる)が厳格に適用された。賠償金額の計算に関して、最高人民法院は、既存証拠により侵害利益が法定賠償額である500万元を明らかに超えており、侵害者が侵害行為に関連する財務資料を故意に提出しない場合、侵害者の該行為は、人民法院の事実認定を妨害する証拠妨害行為と認定し、1億元の賠償額の一審判決を維持した。

2.「LAFITE」等商標権侵害及び不正競争事件
判決番号:最高人民法院(2022)最高法民終313号
意義:
本事件の第二審では、最高人民法院は、侵害者が高い知名度のある商標「LAFITE」、「CHATEAU LAFITE ROTHSCHILD」を悪意により侵害し、侵害情状が深刻であり、懲罰的損害賠償制度の要件(注:主観的要件として「故意による侵害」であり、客観的要件として、「侵害情状が深刻である」である)が満たされたと認定し、懲罰的損害賠償制度が適用された。侵害者に対して、経済損失と合理的支出を含め7917万元の賠償額が判示された。

3.「顔認証」専利権無効審判審決取消訴訟
判決番号:最高人民法院(2021)最高法知行終556号
意義:
最高人民法院は、専利権無効審判手続きにおいて、請求項に対する訂正が、原則として無効理由に対応する訂正に限り許され、無効理由として指摘された不備を克服するという名目で請求の範囲を変更した場合には、認められなくてもよいという意見を改めて表明した。また、専利権権利付与の行政手続きにおいて、請求項の訂正可能な範囲、訂正の方式、訂正目的に関する要件の審査基準を明確にした。

4.「丹玉405号」トウモロコシ植物新品種権侵害事件
判決番号:最高人民法院(2022)最高法知民終2907号
意義:
最高人民法院は、懲罰的損害賠償額を計算するための基数(注:最高人民法院による、知的財産権侵害の民事事件の審理における懲罰賠償の適用に関する解釈第5条第1項に人民法院は懲罰的賠償額を確定するにあたって、それぞれ関連法律に基づき、原告の実際の損害額、被告の違法所得額または権利侵害により獲得した利益を算定基数としなければならないと規定されている。)が事件の証拠に基づいて裁量権により決められること、また、正確な計算が困難であるという理由に、法定賠償額を適用する主張が支持されないことを明確にした。

5.ナビゲーション電子地図著作権侵害及び不正競争事件
判決番号:北京市高級人民法院(2021)京民終421号
意義:
北京高級人民法院は、ナビゲーション電子地図の図形作品の構成要件に対して深く分析し、大量の地図データの実質的類似性を対比検討することにより、デジタル経済を確保する上で知的財産権司法審判の重要な役割を示した。なお、本事件では、著作権法により権利者の合法的な利益が保護されたため、不正競争防止法による二重保護が適用されないことも明確にした。

6.「データ」不正競争事件
判決番号:広東省高級人民法院(2022)粤民終4541号
意義:
本事件は、取引や転売の目的でデータを違法に取得し不正競争を構成する典型的な事件である。広東省高級人民法院は、侵害行為の継続時間、データ規模、侵害情状などを総合的に判断し、経済損失額として2千万元及び権利侵害を制止するために原告が支払った合理的な支出として約27万元を認めた一審判決を維持した。更に、データの「強力な保護」と「秩序ある流通」との間のバランスに基づいて、データ保護の境界線を明確にした。

7.医療機器ソフトウェアの著作権侵害刑事事件
判決番号:上海市第三中級人民法院(2023)滬03刑初23号
意義:
本事件は、刑法改正案(十一)の施行後、技術保護措置を意図的に避けて著作権を侵害する行為が法律に従って処罰された典型的な刑事事件である(注:刑法改正案(十一)により、著作権者及び著作隣接権者の許可を取得せずに、権利者がその作品、録音録画製品などに講じた技術保護措置を意図的に避ける行為又は破壊する行為も著作権侵害罪を構成することとされた)。上海市第三中級人民法院は、技術保護措置の回避または破壊に対する刑事責任を追及するための基準を明確にし、医療機器ソフトウェアの著作権者の合法的権益を充分に保障した。

8.「レンチナン」技術秘密侵害事件
判決番号:江蘇省南京市中級人民法院(2019)蘇01民初3444号
意義:
本事件は、椎茸原料の選択、加工、処理など伝統的な漢方薬の製造プロセスにおける技術秘密の保護に関わる事件である。関連技術は非公知性、価値性、秘密性を有するため、技術秘密として認定され、契約書の秘密保持条項を違反し、第三者に技術秘密を披露した行為は侵害行為を構成すると認定された。
本事件の判決は、伝統的漢方薬の技術秘密の認定や、技術秘密の違法利用に対する賠償額などの問題について検討し、漢方薬技術の応用と発展に寄与した。

9.「小愛同学」ウェイクワード不正競争事件
判決番号:浙江省温州市中级人民法院(2023)浙03民初423号
意義:
本事件は、人工知能ウェイクワードの権益保護に関する典型的事件である。本事件の判決は、使用により一定の影響力を持つウェイクワードが不正競争防止法によって保護される正当な権益に該当することを明確にし、悪意で他人のウェイクワードを先取りに登録し権利を濫用する行為を効果的に規制し、イノベーション型企業のブランドを充分に保護した。

10.「青少年モード」不正競争事件
判決番号:天津自由貿易試験区人民法院(2022)津0319民初23977号
意義:
本事件は青少年モード無効化不正競争の典型的事件である。本事件の判決は未成年者の権益を保護する上で「青少年モード」の積極的な役割を肯定し、不正競争防止法の適用により、「青少年モード」の無効化行為に対して否定的な評価を行い、ネットワークサービスプロバイダーに未成年者を保護する義務と責任を意識的に果たすよう導いた。