この度、下記のとおり和文ニュースレターを発行いたしました。今回は、今年10月から施行された「労働契約申込みみなし制度」や今年11月に出された医薬品に関する特許権の存続期間の延長に関する最高裁判決といったトピックを取り上げています。本ニュースレターについてご質問等ございましたら、弊事務所までご連絡ください。
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労働契約申込みみなし制度の施行について
平成24年の改正により、一定の要件を満たす違法な派遣が行われた場合に、派遣会社を利用する会社(いわゆる派遣先)が派遣労働者に対し、直接雇用を申し込んだものとみなす制度(以下「労働契約申込みみなし制度」という。)が設けられたところ、かかる制度は本年10月1日から施行されている。
このような労働契約申込みみなし制度は、外資系企業のように、ヘッドカウントがあらかじめ決められた企業にとって特に深刻な問題をもたらす。
そこで、労働者派遣法は本年9月11日(施行日は本年9月30日)にさらに改正され、新たなルールがいくつか導入されているが、本ニュースレターでは、労働契約申込みみなし制度に焦点を当てて解説する。
<労働契約申込みみなし制度の概要>
労働契約申込みみなし制度は、違法な派遣を是正するため、①派遣労働者を禁止業務(港湾業務など)に従事させた場合、②派遣業許可のない事業主から派遣労働者を受け入れた場合、③派遣可能期間の制限を超えて派遣労働者を受け入れた場合、または④いわゆる偽装請負の場合に、当該行為を行った時点において、派遣先が派遣労働者に対し、労働契約の申込みをしたものとみなす制度である。ただし、上記①~④に掲げる違法な派遣が行われた時点において善意無過失の場合、派遣先は責任を免れる。
<偽装請負に関する固有の問題>
偽装請負については、他の違法な派遣と異なり、派遣先等の主体的な意思が介在するため、固有の論点が存在するとされ、労働者派遣法等の適用を免れる目的(以下「偽装請負等の目的」という。)で、請負契約等を締結し、当該請負事業主が雇用する労働者に労働者派遣と同様に指揮命令を行うことによって、いわゆる偽装請負等の状態となった時点で労働契約の申し込みをしたものとされる、とされている(平成27年9月30日付け「労働契約申込みみなし制度について」(職発0930第13号))。
いかなる場合に「偽装請負等の目的」が認められるかは個別の事情に基づくものの、派遣先が請負業者等の労働者を直接指揮命令して偽装請負の状態となったことのみをもって「偽装請負等の目的」が推定されるわけではない、とされている。他方で、もともとそのような目的がなかったとしても、派遣先が請負業者から提供を受けている役務が偽装請負の状態にあると認識した場合であって、かかる認識に至った以降も引き続き役務の提供を受けた場合、偽装請負等の目的で契約を締結し役務の提供を受けたと同視できると考えられるため、引き続き役務の提供を受けた時点で労働契約の申込みをしたものとみなされる。
偽装請負は、さまざまな役務提供の場面で問題となるが、特にITインフラの構築やシステム開発の場合にしばしば生じる。例えば、ある企業が自社システムの開発を行う場合、外部のシステム開発業者(ベンダー)に開発を依頼することが多い。ベンダーは依頼企業のニーズや業務フローを理解するために依頼企業の現場に常駐することが多く、また、依頼企業としても、自社の仕様に合わせるべく、ベンダーの従業員に積極的に指示を行うことが多い。このようなケースは、依頼企業がベンダーの従業員に直接指揮命令を行ったとして、偽装請負とみなされる可能性がある。そして、労働契約申込みみなし制度により、当初から偽装請負の目的でベンダーの従業員を受け入れていた場合はもとより、いったん偽装請負であると認識した以降も偽装請負の状態を是正しなければ、偽装請負等の目的が認められ、依頼企業がベンダーの従業員に対し、労働契約を申し込んだとみなされることになる。
また、今後、厚生労働省や労働局が、偽装請負の取り締まりをよりいっそう強化する可能性も否定できない。
したがって、請負業者を利用する企業としては、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号)を参照しつつ、いかなる場合に偽装請負と評価されてしまうのか、偽装請負との評価を受けないためにどのような点に注意しなければならないのか、社内への周知徹底や従業員への教育が非常に肝要である。
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平成27年11月17日付最高裁判決(医薬品の特許権の存続期間延長登録出願について)
最高裁は、平成27年11月19日、医薬品に関する特許権の存続期間の延長登録出願について、延長の適否を判断する際の基準を示した。
<背景>
特許権の存続期間は、特許出願の日から20年とされているが(特許法67条1項)、かかる特許発明を実施するにあたり許認可等を取得する必要があり、その取得に相当の期間を要し特許発明を実施できない期間があった場合、5年間を限度として存続期間を延長できることとされている(同2項)。延長出願を受けた特許庁において、もし問題となっている特許発明を実施するにあたり、許認可等が必要であると認められない場合、延長出願は拒絶される(同法67条の3第1項1号)。
ところで、企業が医薬品を製造販売する場合、医薬品医療機器等法に基づく承認が必要とされている(同法14条1項)。かかる承認は製品の品質、効能・効果及び安全性に関するものであり、有効成分、分量、用法・用量、効能・効果及び副作用に焦点が当てられている。さらに、企業がこれらの事項を変更しようとする場合にも、製品変更に関する承認が必要とされている(同9項)。
本判決においては、米国系製薬会社(以下「本件製薬会社」という。)が、平成4年10月28日、一般名称「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」とする医薬品(以下「本件医薬品」という。)について特許出願を行い、平成15年2月14日、特許登録がなされた(登録された特許権を「本件特許権」という。)。
その後、平成19年4月18日、本件製薬会社は、本件医薬品について医薬品医療機器等法に基づく製造承認(以下「本件先行処分」という。)を取得した。本件先行処分において、本件医薬品の用法及び用量は「他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人には、ベバシズマブとして1回5mg/kg(体重)又は10mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する。投与間隔は2週間以上とする。」とされていた。
特許庁は、本件先行処分を理由とする特許権の存続期間の延長登録出願に基づき、本件特許権の存続期間を4年2月3日(特許登録後から厚生労働省による承認を受けるまでに要した期間)延長した。
平成21年9月18日、本件製薬会社は、本件医薬品の用法及び用量を「他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人にはベバシズマブ1回7.5mg/kg(体重)を点滴静脈内注射する。投与間隔は3週間以上とする。」と変更することについて、厚生労働省から変更承認を受けた(以下「本件処分」という。)。同年12月17日、本件製薬会社は、特許庁に対し、本件処分を理由として再び本件特許権の存続期間の延長登録出願を行った。なお、本件先行処分によっては、XELOX療法(1サイクルを3週間とし、内服薬と2時間の点滴薬の投与で済む療法)とベバシズマブ療法との併用療法のための本件医薬品の製造販売は許されなかったが、本件処分によって初めてこれが可能となった。
しかしながら、特許庁は、本件先行処分における用法及び用量と本件処分における用法及び用量は異なるものの両者の有効成分や効能・効果は同一であるから、本件製薬会社が本件特許権を実施するにあたり本件処分が必要であったとは認められないとして、平成23年1月6日、延長登録出願を拒絶した。これに対し、本件製薬会社は、同年4月18日、不服申立てを行ったものの特許庁の判断は覆らなかったため、審決取消しを求め、知財高裁への提訴に踏み切った。
<知財高裁の判断>
知財高裁は、平成26年5月30日、特許法における特許権の存続期間の延長に関する制度の趣旨は、許認可等を取得する必要性から特許権の存続期間が短縮されると、特許権者が研究開発費を回収できないといった不利益をもたらし、また、開発者・研究者に対しても、研究開発のためのインセンティブを失わせることから、そのような不都合を解消させることにあると判示した上で、本件では本件先行処分における用法及び用量と、本件処分における用法及び用量は異なり、本件処分における用法及び用量で本件医薬品を製造販売することはできなかったのであるから、特許庁としては、本件処分に基づき本件特許権の存続期間を延長すべきであった、と判示した。
<本判決の内容>
最高裁は、本年11月17日、「出願理由処分と先行処分がされている場合において、延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両処分を比較した結果、先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由書分の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは、延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由書分を受けることが必要であったとは認められないと解するのが相当である。」とし、さらに、「医薬品の成分を対象とする物の発明について、医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる両処分の審査事項は、医薬品の成分、分量、用法、用量、効能及び効果である。」、「本件先行処分によっては、XELOX療法とベバシズマブ療法との併用療法のための本件医薬品の製造販売は許されなかったが、本件処分によって初めてこれが可能となった」のであり、「先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含するとは認められない。」と判示し、知財高裁の判断を支持した。
特許庁は、本判決を踏まえ、「特許・実用新案審査基準第IX部 特許権の存続期間の延長」の改訂を検討し、来年春頃を目処に改訂した審査基準を公表する予定とのことである。