Newsletter (2021年1月) │ 知財
植物の新品種は、農林水産分野における知的財産であり、我が国の農業復興や、農業の国際競争力強化の観点から、また、近年は、ブドウやイチゴなどの優良な新品種の海外流出などの問題が顕在化していることから、重要度および注目度が共に高まっています。
種苗法は、我が国における植物品種の保護制度として機能する中心的法制度です。植物の新品種保護に関する基本条約として、植物新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)が締結されていますが、現時点では、外国での新品種の保護について、PCTのような手続統一条約に相当する制度はなく、品種登録は各国ごとにおこなう必要があります。品種登録により、当該品種を開発した者に対して育成者権が与えられます(育成者権とは、業として、登録品種等(登録品種およびこれと明確に区別されない品種を含む。)の種苗、収穫物および一定の加工品を独占的に生産、販売等する権利をいいます。)
したがって、品種流出のリスクの高い国においては、本来ならば品種登録出願(育成者権取得)をおこなうことが望ましく、また、その経費の一部を支援する制度もありますが、コストの面のみならず、時間およびそれにかかる労力を考えると、実際には簡単なことではありません。
そこで、より実効的に新品種を保護すべく海外流出抑止を目的とした改正種苗法が、2020年12月2日参院本会議で可決、成立しました。主な改正点は以下の2点です。
(1)品種の栽培地域を国内や特定都道府県などに限定可能
登録品種の種苗等が譲渡された後でも、当該種苗等を育成者の意図しない国へ輸出する行為や意図しない地域で栽培する行為について、「育成者権」が及ぶよう特例を設けています(改正種苗法第21条の2~第21条の4新設)。
現行法では、正規に購入した種苗であれば、一部の国を除き海外に持ち出すことは、違法でありません。
しかしながら、2021年4月の施行後は、たとえば「国内限定」などの登録品種の利用条件に違反した場合、個人であれば10年以下の懲役または1000万以下の罰金、法人であれば3億円以下の刑罰に問うことが可能となり、また、民事上は、流通の差し止め、損害賠償請求が可能となります。
(2)登録品種の自家増殖の許諾制度
農業者が購入した登録品種の収穫物の一部を次期収穫物の生産のために当該登録品種の種苗として用いる自家増殖について、育成権者の許諾が必要となります(旧法第21条第2項~第4項(育成者権の効力が及ばない範囲)削除)。
現行法でも(1)とは異なり、自家増殖した登録品種の種苗について海外に持ち出すことは違法になりますが、農業者による自家増殖は許諾制でないことから、その増殖と譲渡までを監視することが困難です(農業者が増殖したサクランボの品種が無断で海外の農家に譲渡され、産地化された事例もあります)。
しかしながら、2022年4月の施行後※は、農業者の自家増殖に際して許諾が必要となることから、その増殖の実態を把握し、登録品種の海外流出を抑止できるものと期待されます。
上記許諾の対象は登録品種に限られ、一般品種(在来種、品種登録されたことがない品種、品種登録期間が切れた品種を含む。)の自家増殖は対象外です。
なお、実際の運用等に関しては、種苗価格(許諾料)の適正化、許諾手続きの簡素化などを考慮し、これから整備される予定です。
※試行日が(1)の改正とは異なる点に注意。
参考:
農林水産省ホームページ
「種苗法の改正について」