欧州単一特許制度は当分の間不成立:
欧州単一特許制度の施行は、欧州統一特許裁判所条約が効力を生じた日とされているため(欧州単一特許規則第18条(2))、この2つの制度はリンクしている。欧州統一特許裁判所条約は、ドイツがこれを批准するのを待つのみの段階まできていたが、その最終段階である大統領による署名(国会における手続の後)目前でドイツの憲法裁判所(ドイツ連邦憲法裁判所)において憲法訴訟が提起され、同条約批准の前提条件について規定するドイツの国内法である統一特許裁判所同意法(EPGÜ-ZustG)が違憲無効である旨の申立がなされた。その理由としては
(1)欧州統一特許裁判所条約は国家権力の一部を移譲(司法権)するものであるため、ドイツ基本法(ドイツの憲法)の改正手続を遵守する必要があり、ドイツ連邦議会(Bundestag)において過半数ではなく三分のニ以上の賛成を必要としていたのにそうしなかった点、
(2)欧州統一特許裁判所条約の裁判官の独立性の欠如
(3)欧州統一特許裁判所条約の行政機構の権限が広範に渡るため、民主主義及び法治主義に違反すること
(4)EU法に欧州統一特許裁判所条約が抵触すること
が挙げられた。ドイツの憲法裁判所は2020年2月13日、(2)、(3)そして(4)については判断することなく、(1)を理由に統一特許裁判所同意法を違憲無効と判断した。憲法裁判所には上訴審がないため、このまま決定は確定し、これで欧州単一特許制度は、連邦議会における三分のニ以上の賛成の手続を得ない限り成立しないこととなった。連邦議会において同法律を再度審議にかけることは可能だが、仮に三分のニの賛同が得られたとしても、ドイツの憲法裁判所が他の無効事由について今回判断していないことから、再度憲法訴訟が提起され、結果、欧州単一特許制度の利用開始時期がさらに遅れることが予想されている。
*詳細は、ドイツ連邦憲法裁判所のウェブサイト をご参照ください。