【2024年10月より開始】
会社登記における代表取締役等の住所非表示措置
2024年10月1日、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)が施行され、会社の登記事項証明書に記載される代表取締役等の住所の一部が申出により非表示となる措置が開始されました。ここでは、本措置の利用を希望される会社様向けに、本措置の概要のほか、利用方法、その際の注意点について解説します。
代表取締役等の住所非表示措置とは
株式会社の代表取締役、代表執行役(指名委員会等設置会社の場合)又は代表清算人(清算株式会社の場合)(以下総称して「代表取締役等」といいます。)の住所の一部を、会社の登記事項証明書(いわゆる「登記簿謄本」)や登記事項要約書、登記情報提供サービス(以下「登記事項証明書等」といいます。)に表示しないこととする措置です。
従来、会社の規模にかかわらず、株式会社の代表取締役等の氏名と住所は登記事項として公開が必須とされており、誰でも手軽にその情報にアクセスすることができました。これは、民事訴訟法上の裁判管轄の決定及び訴状の送達や会社の信用調査、取引の安全性確保という場面において一定の役割を果たしてきました。
他方で、近年、プライバシー保護や個人情報保護の重要性が高まるなか、住所の公表義務が問題視されるようになり、企業経営者やその家族の安全を確保するための措置が求められてきました。
このような背景を踏まえ、2024年10月1日より登記制度が改正され、代表取締役の住所を非表示にすることが可能となりました。
なお、2022年9月1日より、DV被害者等である会社代表者等からの申出があれば、登記事項証明書等におけるDV被害者等の住所を非表示とする制度が開始されていますが、本措置はそれとは異なる制度です。
住所非表示措置の対象法人
代表取締役等の住所非表示措置の対象となる法人は、「株式会社」に限れられます。合同会社やその他の持分会社、各種法人等は本措置の対象外です。また、会社法上は株式会社として扱われている有限会社も対象外とされています。
住所非表示措置の対象法人 | 対象外 |
株式会社 | 持分会社(合同会社、合名会社、合資会社)
各種法人(社団法人、財団法人、NPO法人など) 投資事業有限責任組合、有限責任事業組合、限定責任信託 |
住所非表示措置後の住所の表示
代表取締役等の住所非表示措置が行われた場合、登記事項証明書等において表示されるのは、代表取締役等の住所のうち「都道府県及び市区町村まで(東京都においては特別区まで、指定都市においては区まで)」となります。住所がすべて非表示になるわけではありません。
登記事項の表示のイメージ(法務省ウェブサイトより引用)
なお、本措置の対象となるのは「申出以降の住所」である点は要注意です。すでに登記されている過去の住所は非表示の対象外です。
例えば、代表取締役の住所変更を伴わない重任の登記と同時に申出を行った場合、重任後の住所は非表示となります。しかし、それより前にすでに登記されている住所は表示されたままであるため、本措置を望んだ代表取締役等の意に沿わない結果になりかねません。
その意味においては、代表取締役等に新たに就任する時や代表取締役等の住所が変更された時、株式会社設立の時に、初めて本措置の本領が発揮されるといえます。
住所変更を伴わない重任の登記と同時の申出
住所変更を伴う重任の登記と同時の申出
住所非表示措置の利用方法
(1) 登記申請と同時の申出
代表取締役等の住所非表示措置を利用するには、登記申請と同時に申し出なければなりません。また、本措置の申し出ができる登記申請は、代表取締役等の住所が登記されることとなる次の場合に限られます。いつでも本措置の申出ができるわけではない点にご注意ください。
住所非表示措置の申出を行うことができる登記申請 | ①設立の登記
②管轄外へ本店移転する場合の新本店の登記 ③代表取締役等の就任(重任を含む)の登記 ④代表取締役等の住所移転等による変更の登記 |
なお、本措置を終了させる場合(つまり、住所を再度表示させる場合)には、登記申請と同時である必要はなく、いつでも申し出ることができます。
(2) 必要書類の提出
初めて本措置の申出をする際には、次の書類を提出する必要があります。
上場会社である株式会社の場合 | 株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面として、金融商品取引所のホームページの写し等 |
上場会社以外の株式会社の場合 | 以下の①から③までの書面
①株式会社の本店所在場所における実在性を証する書面(次のうち、いずれか1点) ・株式会社が受取人として記載された配達証明書及び株式会社の商号及び本店所在場所が記載された郵便物受領証 ・登記の申請を受任した司法書士等が株式会社の本店所在場所における実在性を確認した書面 ②代表取締役等の住所等を証する書面(次のうち、いずれか1点) ・住民票の写し ・戸籍の附票の写し ・印鑑証明書 ・代表取締役等の氏名及び住所が記載された日本国領事が作成した証明書 ・運転免許証や個人番号カード等の写しであって、代表取締役等が原本と相違ない旨を記載し記名したもの、等 ③株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面(次のうち、いずれか1点) なお、株式会社が一定期間内に実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は不要です。 ・登記の申請を受任した司法書士又は司法書士法人が犯罪収益移転防止法の規定に基づき確認を行った実質的支配者の本人特定事項に関する記録の写し ・実質的支配者の本人特定事項についての代表取締役等の供述を記載した書面であって公証人法の規定に基づく認証を受けたもの(ただし、代表取締役等住所非表示措置の申出と併せて行う登記の申請の日の属する年度又はその前年度に認証を受けたものに限る。) ・株式会社設立における定款認証に当たって申告した実質的支配者の本人特定事項についての申告受理及び認証証明書(ただし、代表取締役等住所非表示措置の申出と併せて行う登記の申請が当該株式会社の設立の日の属する年度又はその翌年度に行われる場合に限る。)、等 |
利用上の注意点
(1) ビジネス活動への影響
代表取締役等の住所非表示措置を受けると、登記事項証明書等によって代表取締役等の住所を証明することができなくなるため、次のような一定の支障をきたす可能性が考えられます。この点については、法務省ウェブサイトにおいても次のような例を挙げて注意喚起されています。
・金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じる。
・不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増える。
(2) 住所変更の登記義務
代表取締役等の住所非表示措置が講じられている場合でも、その後に代表取締役等の住所に変更が生じた場合には変更の登記をしなければなりません。変更登記の申請期限は、住所変更があった日から2週間以内です。登記申請を怠ると「100万円以下の過料」(会社法976条1号)の対象となりますので、注意が必要です。
まとめ
代表取締役等の住所非表示措置は、代表取締役のプライバシー保護の観点からは望ましい反面、非表示の範囲や利用できるタイミングが限定的で、ビジネス活動への影響が未知数であるなど課題も少なくありません。会社ごとにニーズや事情が異なり、本措置を利用するかどうかについては一律に判断できず慎重な検討が必要です。代表取締役の住所非表示措置に関するご相談は、当事務所までお気軽にお問合せください。
執筆者
司法書士・中小企業診断士
山田 匡人(プロフィール)