Newsletter (2020年3月) │ 法務
法令遵守体制関連を含む改正省令(改正薬機法施行規則)等の公布についてはこちら
製造販売業者及び製造業者の法令遵守に関するガイドラインの公表についてはこちら
医療機器の販売・貸与業者及び修理業者の法令遵守に関するガイドラインと薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドラインの策定についてはこちら
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I. はじめに
2019年3月19日、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出されました[1]。第198回通常国会での成立はならず、同年10月4日に開会した臨時国会において審議が継続して行われ、11月27日の参院本会議で可決され、成立、12月4日に公布されました(以下「改正薬機法」)。衆議院厚生労働委員会では14項目、参議院厚生労働委員会では11項目の附帯決議が採択されました。
今回の改正薬機法は、5年前に施行された改正薬事法の附則において、施行後5年を目処として改正後の規程等を検討することとされていたことを受けたもので、広い範囲での改正内容となっています。薬機法に関連する企業への規制強化の側面を含んでいるため、今後詳細が定められる省令等の動向を含め注視していきたいトピックです。
なお、改正薬機法の内容は、2018年4月より行われた厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会[2]における議論、薬事・食品衛生審議会血液事業部会[3]及び薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会[4]における議論と、同年12月25日に取りまとめられた「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」及び「薬剤師が本来の役割を果たし地域の患者を支援するための医薬分業の今後のあり方について」[5]を踏まえたものとなっています。
改正薬機法が公布されると、公布日から1年以内(但し、変更計画(PACMP)による製造方法等の変更手続きの導入、添付文書の電子的方法による提供、特定の機能を有する薬局の認定、ガバナンスに関する改正内容及び課徴金制度については2年以内、バーコード等の表示については3年以内)に施行されます。
(2020年3月11日追記)「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和2年3月11日政令第39号)」(2020年3月11日公布)により、施行期日は、それぞれ、2020年9月1日(覚せい剤原料に関する改正は2020年4月1日)、2021年8月1日、2022年12月1日とされました。
本レターでは、当該改正薬機法の内容と、当該改正が企業に与える影響について紹介します。
II. 改正薬機法の内容
改正薬機法の内容は、1. 医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善、2. 住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し、3. 信頼確保のための法令遵守体制等の整備、4. その他、の4つの大項目から成ります。
1.医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善
「医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善」の内容として、(1)「先駆け審査指定制度」の法制化、(2)「条件付早期承認制度」の法制化、(3)変更計画(PACMP)による製造方法等の変更手続きの導入、(4)改良が見込まれている医療機器の継続した改良を可能とする承認審査制度の導入、(5)添付文書の電子的な方法による提供の原則化、(6)医薬品等の包装等へのバーコード等の表示の義務付け、(7)国際整合化に向けたGMP/GCTP調査に見直し、(8)安全供給の確保に向けたQMS調査の見直し等が盛り込まれています。
先駆け指定審査医薬品等は現行法においても運用で優先審査等の対象として扱われていますが、今回の改正では、「先駆的医薬品等」と「特定用途医薬品等」について、法律上の要件を定め、優先審査等の対象となる旨が法律上明確化されます。また、「条件付早期承認制度」についても現行法においても運用が開始されているところ、検証的臨床研究のデータを添付せずに承認申請を行うことができる旨を法律上明確に定めることとなります。また、変更計画(PACMP)による製造方法等の変更手続きの導入により変更手続きの短縮化が見込まれます。
製薬メーカー、医療機器メーカー、再生医療等製品メーカーにおいては、上記の制度を戦略的に利用して開発、承認申請、市販後の変更手続き等を促進していくことが望まれます。
また、(5)添付文書の電子的な方法による提供及び(6)医薬品等の包装等へのバーコード等の表示については、施行までにこれらの項目に対応したオペレーションを構築することが求められます。
2.住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し
「住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し」の内容としては、(1)薬剤師が、調剤時に限らず、必要に応じて患者の薬剤の使用状況の把握や服薬指導を行う義務及び患者の薬剤の使用に関する情報を他医療提供施設の医師等に提供する努力義務の法制化、(2)地域連携薬局、専門医療機関連携薬局の認定制度の導入、(3)テレビ電話等による服薬指導の規定、等が盛り込まれています。
薬局事業を営む企業は、(1)の改正により、薬局開設者に、薬剤師の情報提供への配慮義務や薬剤師に対して購入者等の使用状況の把握、購入者等への情報提供・指導及び情報提供・指導内容の記録をさせる等の義務が課せられる点に注意が必要です。また、今後詳細が固められていくこととなる、(2)や(3)といった新たな制度の活用可能性を検討することも考えられます。
(3)のテレビ電話等による服薬指導については、既に特区において国家戦略特別区域法第 20 条の5に規定する国家戦略特別区域処方箋薬剤遠隔指導事業が行われてきました。今回の改正では、そのような薬剤遠隔指導の要件を明確化し特区以外の地域にこれを拡大していくことが見込まれています。薬局がテレビ電話等による遠隔での服薬指導を行う場合には明確化される要件を注視し対応していくことが必要です。
(2020年5月11日追記)なお、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則等の一部を改正する省令案(仮称)の概要」[6]及び「オンライン服薬指導に関する施行通知(仮称)の要旨」[7]が2019年12月19日付で公表され意見募集(パブリックコメント)の手続きに付され、それぞれ2020年3月27日付、3月30日付で意見募集結果が公示[8][9]、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則等の一部を改正する省令(令和2年3月27日厚生労働省令第52号)[10]、及び、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行について(オンライン服薬指導関係)」(令和2年3月31日薬生発0331第36号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)[11]が出されています。
3.信頼確保のための法令遵守体制等の整備
「信頼確保のための法令遵守体制等の整備」の内容として、(1)薬機法の許可等業者に対する法令遵守体制の整備の義務付け、(2)虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設、(3)国内未承認の医薬品等の輸入に係る確認制度の法制化、麻薬取締官等による捜査対象化、(4)医薬品として用いる覚せい剤原料について、医薬品として用いる麻薬と同様、自己の治療目的の携行輸入等の許可制度を導入、等が盛り込まれています。ここでは、企業に与える影響の大きい(1)と(2)の改正内容について取り上げます。
(1)薬機法の許可等業者に対する法令遵守体制の整備の義務付け
医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の製造販売業者、製造業者、薬局、店舗販売業者、配置販売業者、卸売販売業者、採血事業者、高度管理医療機器等の販売業者・貸与業者、修理業者のガバナンスに関係する改正内容であり、企業にとってインパクトのある改正内容となっています。
ア 責任役員
薬事に関する業務に責任を有する役員を法律上位置づけ、許可申請書に記載することが求められます。「薬事に関する業務に責任を有する役員」とは、株式会社においては、取締役を意味し、執行役員は含まれないとされています。なお、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会では当局による責任役員の変更命令権が議論されていましたが、業界による反対もあり、今回の改正薬機法の内容に含めることは見送られています。もっとも2019年11月13日に衆院厚生労働委員会により採択された附帯決議及び11月26日に参院厚生労働委員会により採択された附帯決議には、「役員変更命令の法定化について、本法の施行状況を踏まえ検討を行う」という項目が含まれたため、将来的に役員変更命令の法制化が再度議論される余地が残りました。
イ 法令遵守体制の整備
改正薬機法では、医薬品、医薬部外品又は化粧品の製造販売業者・製造業者に対し、「…業務を適正に遂行することにより、薬事に関する法令の規定の遵守を確保するために」以下の措置を講じる義務、及び措置の内容を記録しこれを適切に保存する義務が追加されます。
- 品質管理及び製造販売後安全管理に関する業務(製造業者においては製造の管理に関する業務)について、医薬品等総括製造販売責任者(製造業者においては医薬品製造管理者又は医薬部外品等責任技術者)が有する権限を明らかにすること
- 品質管理及び製造販売後安全管理に関する業務(製造業者においては製造の管理に関する業務)その他の製造販売業者(製造業者)の業務の遂行が法令に適合することを確保するための体制、当該製造販売業者(製造業者)の薬事に関する業務に責任を有する役員及び従業員の業務の監督に係る体制その他の製造販売業者(製造業者)の業務の適正を確保するために必要なものとして厚生労働省令で定める体制を整備すること
- 医薬品等総括製造販売責任者(製造業者においては医薬品製造管理者、医薬部外品等責任技術者)その他の厚生労働省令で定める者に、第12条の2第1項各号(製造業者においては第14条2項4号)の厚生労働省令で定める基準を遵守して医薬品等の品質管理及び製造販売後安全管理(製造業者においては製造管理又は品質管理)を行わせるために必要な権限の付与及びそれらの者が行う業務の監督その他の措置
- その他従業員に対して法令遵守のための指針を示すことその他の業務の適正な遂行に必要なものとして厚生労働省令で定める措置
また、これまでの総括製造販売責任者・製造管理者の意見の尊重義務に加え、これらの者として必要な能力及び経験を有する者をおかなければならないとの規定が追加されるとともに、法令遵守のために措置を講ずる必要があるときは、当該措置を講じ、かつ、講じた措置の内容(措置を講じない場合にあっては、その旨及びその理由)を記録し、これを適切に保存する義務が設けられます。これまでに記録・保存の社内プロセスの整備されていない企業は対応が必要になる事項です。
<法令遵守体制の整備の全体像>
医療機器・再生医療等製品の製造販売業者・製造業者や薬局、店舗販売業者、配置販売業者、卸売販売業者、採血事業者、高度管理医療機器等の販売業者・貸与業者、修理業者についても、改正薬機法において、同様に法令遵守体制の整備に関する規定がおかれています。
企業においては、自社の薬機法遵守の観点からの法令遵守体制の見直しが求められるでしょう。具体的な内容については今後厚生労働省令、施行規則、通知等で定められることになるため注視していくことが必要ですが、基本的には会社法上の内部統制(と金融商品取引法に基づく内部統制(財務報告に係る内部統制))の考え方を参考に、①ルールを決める、②決めたルールを伝達・教育する、③ルールに従って仕事を行い、それを記録化する、④記録を他者が監督する、というステップで薬機法遵守の体制を整備していくことが求められていくのではないかと考えられます。具体的には、企業行動規範の策定(見直し)や公表、薬事に関する法令遵守の重要性についてのトップによるメッセージ、組織図・社内規程・手順書・記録の保存のルール・内部通報制度等の見直し、適切な社内トレーニング等を行っていくことを検討することが考えられます。また、ヘルスケア事業を行う企業の買収等を行う際には、デューデリジェンスの中で、これまで以上に薬事に関する法令の遵守体制についても検討が必要になると思われます。
(2)虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設
薬機法改正薬機法における課徴金制度は、一連の研究不正の事件を受けて今回新たに導入されるもので、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品(併せて「医薬品等」)の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する虚偽・誇大広告を行った期間に取引をした対象医薬品等の対価の合計額に4.5%をかけた金額が課徴金額となることが定められています。なお、景品表示法の課徴金の計算に使われる%が3%であるのに対し、薬機法の課徴金が4.5%であるのは、ヘルスケア企業の営業利益率を勘案してのものとされています[8]
[8] 第200回国会 厚生労働委員会 第5号(令和元年11月13日(水曜日))議事録
この課徴金制度には景品表示法による優良誤認表示に該当する場合や許可・登録等の取消し、改善措置命令等を受ける場合の調整規定が定められており、独占禁止法や金融商品取引法等が課徴金の義務的賦課制度を採用しているのと異なり、課徴金納付命令を行わないことができる場合が定められていることが特徴的です。また自主申告の場合の減免制度も設けられています。なお、虚偽・誇大広告をやめてから5年を経過している行為や対価合計額が5000万円未満の場合については課徴金を課されないこととされています。
医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインの施行等、ヘルスケア業界における広告規制や当局の監視は年々厳しくなっているといえます。企業としては、広告の監視体制を益々強化していくことが求められます。
4.その他
「その他」の改正内容として、(1)医薬品等の安全性の確保や危害の発生防止等に関する施策の実施状況を評価・監視する医薬品等行政評価・監視委員会の設置、(2)科学技術の発展等を踏まえた採血の制限の緩和、等が盛り込まれています。
(1)については、薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会により2010年4月28日にとりまとめられた「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」[9]を踏まえて設置されるものです。
(2)については、安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律[10](「血液法」)を改正することによって、「医薬品等の研究開発において試験に用いる物その他の医療の質又は保険衛生の向上に資する物」について、採血制限を緩和する等、医療の発展に寄与する採血を認める内容です。現状、例えば、医薬品等の開発において、候補物質の有効性、毒性などの評価に用いられるiPS心筋細胞等の血液由来特定研究用具、医学的検査の標準品が「医薬品等の研究開発において試験に用いる物その他の医療の質又は保険衛生の向上に資する物」として挙げられていますが、企業の研究開発に資する内容と考えられ、具体的な「物」の特定を引き続き注視していきたいところです。また、血液法の改正により、血液製剤の原料たる原料血漿を製造した製造業者、血液製剤を製造した製造業者は、新たに血液製剤の製造販売業者に対し、安全性情報を提供する義務が法定されることに注意が必要です。
5.まとめ
以上みてきたように、今回の薬機法改正薬機法はその対象が多岐にわたることから、今後制定されていくこととなる施行令や施行規則等を含めて引き続き議論の動向を注視し、これに対応していく必要があります。
(2019年11月28日(2019年12月9日、2020年3月11日、2020年5月11日更新))
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