Newsletter (2021年4月) │ 法務
(2021年4月12日執筆、4月24日ガイダンス発出を受け一部改訂)
I. はじめに
2021年(令和3年)3月23日、文部科学省、厚生労働省及び経済産業省は、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」[1](統合指針、新指針等とも呼ばれることがありますが、下記ホームページの記載に倣い、以下「生命・医学系指針」)を制定しました。文部科学省、厚生労働省及び経済産業省の各ホームページ[2][3][4]において公表されています。また、4月16日付で「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針 ガイダンス」[5](以下「ガイダンス」)と「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」説明資料(「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針について(策定経緯及び医学系指針及びゲノム指針からの主な変更点)」)[6]が公表されています。
生命・医学系指針の対象となる研究の倫理審査委員会を設置している機関・企業等においては、施行日(6月30日)までに対応が求められることから、このニュースレターでは、当該生命・医学系指針の内容についてQ&Aの形式でお届けいたします。
Ⅱ. 生命・医学系指針の内容
Q1 「生命・医学系指針」制定の趣旨について教えて下さい。
従前から存在している、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年文部科学省・厚生労働省告示第3号。以下「医学系指針」という。)及び「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(平成25年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号。以下「ゲノム指針」という。)が統合され、今回新たな指針として「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(「生命・医学系指針」)が制定されました。これに伴い、生命・医学系指針の施行日に医学系指針、ゲノム指針は廃止されることとなります。
生命・医学系指針の制定にあたっては、文部科学省、厚生労働省及び経済産業省による「医学研究等に係る倫理指針の見直しに関する合同会議」[7]、「医学研究等に係る倫理指針の見直しに関する合同会議タスク・フォース」[8]において、医学系指針及びゲノム指針の両指針間の項目の整合性や指針改正の在り方について検討が行われました。このような検討を踏まえ、2020年6月29日付で「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(案)概要」が公表されパブリックコメント(意見公募手続)の実施がなされ[9]、その結果(以下「パブコメ回答」)が2021年3月23日付で公表[10]されています。
Q2 生命・医学系指針の施行時期はいつですか。また、施行日前から実施中の研究は影響を受けますか。
生命・医学系指針の施行日は、2021年(令和3年)6月30日です。
ただし、施行日(2021年6月30日)において、廃止前の疫学研究に関する倫理指針、臨床研究に関する倫理指針、ゲノム指針又は医学系指針の規定により実施中の研究については、従前の例によることができます。
また、生命・医学系指針の施行前において、廃止前の疫学研究に関する倫理指針若しくは臨床研究に関する倫理指針、ゲノム指針又は医学系指針の規定により実施中の研究について、研究者等及び研究機関の長又は倫理審査委員会の設置者が、それぞれ、生命・医学系指針の規定により研究を実施し又は倫理審査委員会を運営することもできます。
Q3 生命・医学系指針の適用範囲や違反の場合の効果について教えてください。
適正に医学研究を実施するための指針は、厚生労働省、文部科学省等が連携し、これまで複数定められています[9]。指針は法律そのものではありませんが、指針を遵守せず、厚生労働省等から改善指導が行われたにもかかわらず、正当な理由なく改善が認められない場合には、資金提供の打ち切り、未使用研究費等の返還、研究費全額の返還、競争的資金等の交付制限等の措置が講じられることがあり得ます。
今回の生命・医学系指針は、①日本の研究機関により実施され、又は、②日本国内において実施される、人を対象とする、「生命科学・医学系研究」に適用されます。すなわち、実施主体が日本の研究機関であるか、研究の地理的な範囲が日本国内である場合に適用されます。また、日本の研究者等が日本国外で研究を実施する場合であっても、より厳格な海外の基準の規定により研究を実施するか、海外の基準がより厳格ではないが研究機関の長の許可を得て海外の基準の適用により研究を実施しない場合には「生命科学・医学系研究」が適用されます。
「生命科学・医学系研究」とは、以下の研究を指します。なお、生命・医学系指針の適用範囲は医学系指針及びゲノム指針の適用範囲と同一であるとされています(パブコメ回答8)(下記アは、医学系指針の「人を対象とする医学系研究」の定義を、イはゲノム指針の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究」をほぼ踏襲しています)。研究の範囲は、ガイダンスにおいても例示が示されているため、ガイダンスの内容も確認する必要があります。
「生命科学・医学系研究」 |
人を対象として、次のア又はイを目的として実施される活動をいいます。 ア 次の①、②、③又は④を通じて、国民の健康の保持増進又は患者の傷病からの回復若しくは生活の質の向上に資する知識を得ること。 ①傷病の成因(健康に関する様々な事象の頻度及び分布並びにそれらに影響を与える要因を含む。)の理解 ②病態の理解 ③傷病の予防方法の改善又は有効性の検証 ④医療における診断方法及び治療方法の改善又は有効性の検証 イ 人由来の試料・情報を用いて、ヒトゲノム及び遺伝子の構造又は機能並びに遺伝子の変異又は発現に関する知識を得ること。 |
他の指針の適用範囲に含まれる研究については、当該指針に規定されていない事項について生命・医学系指針の規定が適用されます。
また、次のいずれかの研究は、生命・医学系指針の適用対象外です。
適用対象外の研究 |
1. 法令の規定により実施される研究 2. 法令の定める基準の適用範囲に含まれる研究 3. 試料・情報のうち、次に掲げるもののみを用いる研究 ① 既に学術的な価値が定まり、研究用として広く利用され、かつ、一般に入手可能な試料・情報 ② 既に匿名化されている情報(特定の個人を識別することができないものであって、対応表が作成されていないものに限る。) ③ 既に作成されている匿名加工情報又は非識別加工情報 ※③については、既に作成されている匿名加工情報又は非識別加工情報を個人情報保護法に規定する大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者により学術研究の用に供する目的で用いる場合には、第21の匿名加工情報の取扱いは適用されます。 |
Q4 生命・医学系指針の構成について教えて下さい。
生命・医学系指針の構成は以下のとおりです。
<生命・医学系指針の構成>
前文 第1章 総則 第1 目的及び基本方針 第2 用語の定義 第3 適用範囲 1 適用される研究 2 日本国外において実施される研究 第2章 研究者等の責務等 第4 研究者等の基本的責務 1 研究対象者等への配慮 2 教育・研修 第5 研究機関の長の責務等 1 研究に対する総括的な監督 2 研究の実施のための体制・規程の整備等 第3章 研究の適正な実施等 第6 研究計画書に関する手続 1 研究計画書の作成・変更 2 倫理審査委員会への付議 3 研究機関の長による許可等 4 研究の概要の登録 5 研究の適正な実施の確保 6 研究終了後の対応 第7 研究計画書の記載事項 第4章 インフォームド・コンセント等 第8 インフォームド・コンセントを受ける手続等 1 インフォームド・コンセントを受ける手続等 2 電磁的方法によるインフォームド・コンセント 3 試料・情報の提供に関する記録 4 研究計画書の変更 5 説明事項 6 研究対象者等に通知し、又は公開すべき事項 7 同意を受ける時点で特定されなかった研究への試料・情報の利用の手続 8 研究対象者に緊急かつ明白な生命の危機が生じている状況における研究の取扱い 9 インフォームド・コンセントの手続等の簡略化 10 同意の撤回等 第9 代諾者等からインフォームド・コンセントを受ける場合の手続等 1 代諾の要件等 2 インフォームド・アセントを得る場合の手続等 第5章 研究により得られた結果等の取扱い 第10 研究により得られた結果等の説明 1 研究により得られた結果等の説明に係る手続等 2 研究に係る相談実施体制等 第6章 研究の信頼性確保 第11 研究に係る適切な対応と報告 1 研究の倫理的妥当性及び科学的合理性の確保等 2 研究の進捗状況の管理・監督及び有害事象等の把握・報告 3 大臣への報告等 第12 利益相反の管理 第13 研究に係る試料及び情報等の保管 第14 モニタリング及び監査 第7章 重篤な有害事象への対応 第15 重篤な有害事象への対応 1 研究者等の対応 2 研究責任者の対応 3 研究機関の長の対応 第8章 倫理審査委員会 第16 倫理審査委員会の設置等 1 倫理審査委員会の設置の要件 2 倫理審査委員会の設置者の責務 第17 倫理審査委員会の役割・責務等 1 役割・責務 2 構成及び会議の成立要件等 3 迅速審査等 4 他の研究機関が実施する研究に関する審査 第9章 個人情報等及び匿名加工情報 第18 個人情報等に係る基本的責務 1 個人情報等の保護 2 適正な取得等 第19 安全管理 1 適正な取扱い 2 安全管理のための体制整備、監督等 第20 保有する個人情報の開示等 1 保有する個人情報に関する事項の公表等 2 開示等の求めへの対応 第21 匿名加工情報の取扱い 第10章 その他 第22 施行期日 第23 経過措置 第24 見直し |
Q5 生命・医学系指針の医学系指針及びゲノム指針からの主な変更点を教えてください。
生命・医学系指針においては、医学系指針及びゲノム指針から以下の点が変更されています。
(1)構成の見直し
医学系指針及びゲノム指針が統合され、生命・医学系指針では、医学系指針の構成が維持され、ゲノム指針の構成が組み替えられました。Q4に記載のとおり、生命・医学系指針では、以下のとおり構成の見直しがなされています。これに伴い、ゲノム指針の「細則」で規定していた事項については、生命・医学系指針の本文又はガイダンスで整理されることになりました。
第1章 | 総論的な概念や定義等を整理 |
第2章 | 研究者等が研究を実施する上で遵守すべき責務や考え方を整理 |
第3章から第7章 | 生命科学・医学系研究に携わる全ての関係者が行うべき具体的な手続きを、研究が実施される流れに沿って整理 |
第8章 | 倫理審査委員会に関する規定 |
第9章 | 特に留意すべき事項である個人情報等及び匿名加工情報の取扱い等に関する項目について、上述の研究実施の手続とは分けて規定 |
(2)用語の定義の見直し
医学系指針及びゲノム指針が統合されたことに伴い、以下のとおり用語の定義が見直されています。
- 人を対象とする生命科学・医学系研究:新たに「人を対象とする生命科学・医学系研究」の用語の定義が追加されました。内容についてはQ3参照。
- 研究協力機関:新たに「研究協力機関」の用語の定義が以下のとおり追加されました。
「研究協力機関とは、研究計画書に基づいて研究が実施される研究機関以外であって、当該研究のために研究対象者から新たに試料・情報を取得し(侵襲(軽微な侵襲を除く。)を伴う試料の取得は除く。)、研究機関に提供のみを行う機関をいう。」
そして、研究協力機関が新たに試料・情報を取得する場合であっても、研究機関に提供のみを行うのであれば、「研究者等」として研究の責任を負わないこととなりました。
- 研究者等:(従来は研究者等の定義に含まれていた)「研究協力機関」は、研究者等の定義から除かれる形の定義が置かれました。
- 多機関共同研究:新たに「多機関共同研究」の用語の定義が以下のとおり追加されました。多機関共同研究については、手続の効率化を図るため、原則として、一つの倫理審査委員会による一括した審査を求めることとしました(下記(4)の1)も参照)。
- 「多機関共同研究とは、一の研究計画書に基づき複数の研究機関において実施される研究をいう。」
- 研究代表者:「多機関共同研究」の定義が上述のとおり新たに生命・医学系指針に追加されたことに伴い、「多機関共同研究を実施する場合に、複数の研究機関の研究責任者を代表する者」が研究代表者と定義されました。
- 遺伝カウンセリング:ゲノム指針に規定されている定義(「遺伝医学に関する知識及びカウンセリングの技法を用いて、対話と情報提供を繰り返しながら、遺伝性疾患をめぐり生じ得る医学的又は心理的諸問題の解消又は緩和を目指し、支援し、又は援助することをいう。」)を一部改訂した上で以下のように規定されました(下線部は今回の追加部分)。
「遺伝医学に関する知識及びカウンセリングの技法を用いて、研究対象者等又は研究対象者の血縁者に対して、対話と情報提供を繰り返しながら、遺伝性疾患をめぐり生じ得る医学的又は心理的諸問題の解消又は緩和を目指し、研究対象者等又は研究対象者の血縁者が今後の生活に向けて自らの意思で選択し、行動できるよう支援し、又は援助することをいう。」
(3)研究対象者等の基本的責務に係る規定の変更
地域住民等を対象とする研究実施の場合、研究対象者等や地域住民等に研究内容・意義について説明・理解を得るよう努めなければならないことが規定されました。
(4)研究計画書に関する手続
1)多機関共同研究の新設に係る変更
上記(2)で触れたとおり、今回「多機関共同研究」の定義が新設されたことに関連し、多機関共同研究を実施する場合の研究代表者の選任や研究計画書の作成に係る規定が新設されました。また、多機関共同研究に係る研究計画書については、原則として一つの倫理審査委員会による一括した審査を求めなければならない旨の規定が新設されました。臨床研究法においては、多施設共同の特定臨床研究を実施する際は認定臨床研究審査委員会で審議することが定められていますが、今回の生命・医学系指針もこの流れに沿う変更がなされたものです(もっとも、生命・医学系指針においても「一つの倫理審査委員会」以外の個別の倫理審査委員会の意見を聴くことは排除されていません)。
2)研究の概要の登録等に係る規定を変更
生命・医学系指針においては、「介入を行う研究」について、原則として、厚生労働省が整備するjRCT(Japan Registry of Clinical Trials)[12]等の公開データベースに、当該研究の概要等をその実施に先立って登録し、更新を行わなければならない旨を規定しました。また、それ以外の研究(介入を行う研究以外の研究)についても、公開データベースへの登録、更新を努力義務としました。
(5)インフォームド・コンセント等の手続きの見直し
1)インフォームド・コンセントの手続とその他の手続の項目を分離
医学系指針の規定では、「インフォームド・コンセントを受ける手続等」に係る規定の中に、他の研究機関に試料・情報の提供を行う際又は他の研究機関から試料・情報の提供を受ける際に必要な記録の作成の手続等の規定が混在していました。生命・医学系指針では、インフォームド・コンセントの手続とその他の手続とを別の項目に規定しました(Q4及びQ5(1)も参照)
2)研究協力機関とインフォームド・コンセント
生命・医学系指針では、研究協力機関の概念が創設されたことに伴い、研究協力機関において試料・情報の取得をする際のインフォームド・コンセントは、研究協力機関ではなく、「研究者等」が取得することと定められました。
3)電子的IC(電磁的方法によるインフォームド・コンセント)
生命・医学系指針では、研究者等が研究対象者等からインフォームド・コンセントを受ける際に、電磁的方法(デジタルデバイスやオンライン等)を用いることが可能である旨新たに定められました。なお、従来の医学系指針には、「自由意思に基づく文書による同意は、現段階においては、なりすましの防止等の課題があるため、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によって認識できない方式によること(電子メール等による同意)は想定していない。」と記載されており、電磁的方法によるインフォームド・コンセントが認められていませんでした。
生命・医学系指針では、電磁的方法によるインフォームド・コンセントを受ける際に留意すべき事項を下記のとおり整理しています。電磁的方法によるインフォームド・コンセントを受ける際にこの3要素を満たしているかを精査する必要があります。
要件① | 研究対象者等に対し、本人確認を適切に行うこと。 |
要件② | 研究対象者等が説明内容に関する質問する機会を与え、かつ、当該質問に十分に答えること。 |
要件③ | インフォームド・コンセントを受けた後も5の規定による説明事項を含めた同意事項を容易に閲覧できるようにし、特に研究対象者等が求める場合には文書を交付すること。 |
なお、電磁的方法によるインフォームド・コンセントの具体的な方法については、パブリックコメントでも多数質問・コメントが寄せられていました。ガイダンスでは、以下のとおり、具体的な方法について解説がなされています。
①対象
まず、生命・医学系指針上要求される「文書によるインフォームド・コンセント」が(従前は認められていませんでしたが)電磁的方法により受けることが可能になりました。また、生命・医学系指針上、「文書によるインフォームド・コンセント」が不要の研究(口頭でのインフォームド・コンセントでもよいとされているもの等)でも電磁的方法によりインフォームド・コンセントを受けることでもよいとされています。また、インフォームド・コンセントにおいて、説明・同意のいずれか一方のみを電磁的方法によることも可能とされています。
②手続き
手続きについて、研究責任者は、研究計画書の内容に応じて、インフォームド・コンセントを電磁的方法により受けることの適否、またその具体的手法及び本人確認方法等の配慮事項の措置について検討した上で、研究計画書にその内容に加え、画面・動画等研究対象者等に示す予定のものの画像等を明記することにより倫理審査委員会の意見を聴くことが求められます。
③電磁的方法による説明
ガイダンスで提示されている、電磁的方法による説明の具体例は以下のとおりです。
「電磁的方法による説明」の具体例 |
直接対面でパソコン等の映像面上に説明文書等を映し、閲覧に供する。 |
電気通信回線を通じたテレビ電話等での対面で、パソコン等の映像面上に説明文書等を映し、閲覧に供する。 |
電気通信回線を通じて電子メールで送付又は研究機関のホームページ等に掲載し、研究対象者等の閲覧に供する。 |
DVD、USBメモリ等の電磁的記録媒体を渡し、研究対象者等自身のパソコン等による閲覧に供する。 |
④電磁的方法による同意
ガイダンスで提示されている、電磁的方法による同意の具体例は以下のとおりです。
「電磁的方法による同意」の具体例 |
パソコン等の映像面上における説明事項のチェックボックスへのチェックと同意ボタンの押下 |
パソコン等の映像面上へのサイン |
電子メールによる同意の表明等 |
⑤本人確認
上記要件①で求められる「本人確認」とは、「手続きを実施する人物が、実在する本人であるかを確認すること」とガイダンスで説明されています。非対面の場合、研究者等による、研究対象者等の身元確認又は当人認証の実施が該当し、具体例として以下が提示されています。
「電磁的方法による同意」の具体例 |
|
身元確認 | 自己申告・身分証明書の提示を受ける 等 |
当人認証 | ・単要素認証(例えば、IDと紐付けて、パスワード等の単一の要素を用いる方法)
・多要素認証(例えば、IDと紐付けて、「知識(パスワード、秘密の質問など)」、「所持」(スマートフォンのSMS・アプリ認証、ワンタイムパスワードのメール送付、トークン、クレジットカード等)、「生体」(顔・指紋など)などのうち複数の要素を組み合わせる方法。) |
また、本人確認の方法は、研究の内容や性質に応じて、適切な強度である必要があるとされ、研究対象者に対する侵襲があるなど、一定のリスクや負担が認められ、別途研究協力機関等においても対面での本人確認が行われない場合、オンラインによる公的身分証明書(マイナンバーカード、運転免許証、パスポート、健康保険証等)の確認を行うことなども考えられる、とガイダンスで説明されています。一方で、侵襲を伴わないなど、研究対象者の被るリスクや負担が大きくない場合、必要以上に多くの情報を求めないようにするなど、過重な負担を課するものとならないよう配慮する必要があるとされています。身分証明書の提示を受ける方法を選択する場合には、必要以上に研究対象者等の個人情報を取得しないようにする、マイナンバーの取扱いに注意するなど、安全管理措置に特に注意が必要とされていますのでこの点にも注意して本人確認を行う必要があります。
⑥質問の機会
上記要件②で、研究対象者が質問をする機会を与えることが求められますが、ガイダンスでは、研究対象者等が説明を受け、研究の内容等を理解するために必要な質問を考える時間を考慮する必要があるとされています。非対面で行う場合の具体的な事例として、以下が挙げられています。
「電磁的方法による同意」の具体例 |
問合せフォームの設置 |
電話番号、メールアドレスの提示等 |
また、「当該質問に十分に答えること」が必要ですが、インフォームド・コンセントを受ける主体である研究者等が回答を行い、研究対象者等の理解が得られたことを確認した上で同意を受ける必要があるとされています。
⑦同意事項の閲覧
上記要件③により「インフォームド・コンセントを受けた後も説明事項を含めた同意事項を容易に閲覧できるようにする」ことも求められますが、ガイダンスでは閲覧の具体例として以下が提示されています。
「容易に閲覧できるようにする方法」の具体例 |
文書の交付 |
電子メールの送付 |
研究機関のホームページ等への掲載 |
研究機関において閲覧に供しておくこと等 |
実務においていずれの方法でこれらの要件を満たしていくことになるのか今後の動向も注目されます。
(6)研究により得られた結果等の取扱いに係る規定の変更
生命・医学系指針では、ゲノム指針の「第3の8 遺伝情報の開示」と「第3の9 遺伝カウンセリング」の規定が改訂されました。「研究により得られた結果等の取扱い」の項目の新設の項目として、研究者等は、研究により得られる結果等の特性を踏まえ、研究対象者への説明方針を定め、インフォームド・コンセントを受ける際はその方針を説明し、理解を得なければならないことが規定されました。
(7)倫理審査委員会への報告に係る規定の新設
生命・医学系指針では、「研究計画書の軽微な変更」のうち、倫理審査委員会が事前に「確認」のみで良いと認めたものについては、倫理審査委員会への報告事項として取り扱うことができるとする規定を新設しました。これにより、「研究計画書の軽微な変更」については、倫理審査委員会の規程を改訂し、あらかじめ具体的にその内容と運用等を定めることにより、報告事項とすることが可能になります。なお、これまでは研究計画書の軽微な変更については、倫理審査委員会が指名する委員による審査(迅速審査)を行うことはできましたが、報告のみで変更を行うことは認められていませんでした。
(8)その他-研究計画書の倫理審査委員会への付議等の手続の実施主体の変更
生命・医学系指針では、研究実施に伴い必要な手続(研究計画書の倫理審査委員会への付議や重篤な有害事象が発生した場合の大臣への報告等)の実施主体が、「研究機関の長」ではなく「研究責任者」とされ、研究機関の長の責務等が変更されました。
5.まとめ
今回の生命・医学系指針の策定を受けて、倫理審査委員会を設置している機関・企業等においては、施行日(6月30日)までに生命・医学系指針・ガイダンスの内容把握、実施中・実施予定の研究の洗い出し・施行後対応検討、倫理審査委員会規程の見直し(用語・対象・手続き)、契約書(研究契約等)・手順書見直し等の対応が求められます。このような対応にあたり本ニュースレターが検討の一助になれば幸いです。
(2021年4月12日執筆、4月24日一部改訂)
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