6月 2016

特許法条約の加入等を目的とした特許法等の法改正

日本国が特許法条約(Patent Law Treaty;PLT)に加入するにあたり、手続の統一化及び簡素化により出願人の利便性向上及び負担軽減を図ることを目的として、2015年に特許法の一部が改正されました。手続期間の延長機会の拡大、出願日認定要件の緩和が盛り込まれたこの改正特許法は、2016年4月1日より施行され、 また、改正特許法の施行に合わせて審査基準及び審査ハンドブックも改訂されました。
主な変更点は以下のとおりです。

(1)出願日の認定要件の明確化及び手続の補完
(2)先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願
(3)明細書又は図面の記載の一部欠落の補完
(4)指定期間の延長
(5)外国語書面出願の翻訳文の取扱い

 指定期間の延長(上記(4))に関しては、前回のニューズレターをご参照下さい。

(1)出願日の認定要件の明確化及び手続の補完(特許法第38条の2)

特許出願について、以下のいずれかに該当する場合を除いて、特許出願の願書を提出した日が特許出願の日として認定されます。また、

①特許を受けようとする旨の表示が明確でないと認められるとき、
②特許出願人の氏名若しくは名称の記載がなく、又はその記載が特許出願人を特定できる程度に明確でないと認められるとき、
③明細書が添付されていないとき、

のいずれかに該当した場合には、特許庁から補完を求める通知がなされます。出願人は、省令で定める期間内(2か月)に限り補完ができます。補完をした場合、補完した日が特許出願の日として認定されます。また、通知があったにもかかわらず補完をしないときは、当該出願は却下されます。

 

(2)先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願

特許出願の願書に明細書を添付しなくても、一定条件の下、出願日が認定される制度が導入されました。

願書に記載する事項は以下の通りです。
①自己が行った先の特許出願(外国で出願したものも含みます。)を参照すべき旨を主張する方法による特許出願(以下「先願参照出願」)である旨、
②当該先の特許出願の出願番号、出願日、出願をした国(機関)。

出願日から4か月以内に、明細書及び必要な図面、先の出願の認証謄本を提出することが必要です。また、先の出願が外国語で記載されているときには日本語による翻訳文を提出します。このとき、出願料とは別に、14,000円の手数料の納付が必要となります。
なお、先願参照出願の出願日は、原則、願書の提出日となりますが、出願後に提出された明細書及び図面の記載事項が、先の出願の願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲に含まれないときは、当該明細書及び図面を提出した日が出願日となります。このため、例えば実施例等を追加したような場合には、出願日が明細書等の提出日に繰り下がってしまいますので、この点注意が必要です。
また、外国語書面出願、分割出願、変更による出願には適用できない点、及び、先の特許出願の明細書等が外国語であったとしても、後から誤訳訂正書による補正ができない点にも留意が必要です。

 

(3)明細書又は図面の記載の一部欠落の補完

特許出願の願書に添付されている明細書又は図面の記載の一部が欠けている場合には、特許庁から、欠けている部分(以下「欠落部分」)を補完することができる旨の通知が行われます。
欠落部分の補完が可能なのは、通知の日(通知前に自発的に補完する場合は、出願書類の特許庁到達日)から2か月となります。補完された明細書及び図面は、願書に添付して提出されたものとみなされます。
欠落部分を補完したときは、原則として、その日が出願日となります。ただし、欠落部分を補完する特許出願が優先権主張を伴うものであって、かつ、欠落部分が当該優先権主張の基礎出願(原則としてその写し等の提出が必要)に完全に含まれているときは、出願日は願書の提出日となります。

 

(5)外国語書面出願の翻訳文の取扱い

外国語書面出願の翻訳文の提出期限が、現在の「出願日(又は優先日)から1年2か月以内」から2か月間延長されて、「出願日(又は優先日)から1年4か月以内」となりました。
また、外国語書面出願の翻訳文が、提出期間内に提出されなかったときは、特許庁から通知が行われ、通知の日から2か月内に限り、翻訳文の提出ができることになりました。
更に、外国語書面出願することができる外国語は、現在の英語のみから、英語その他の言語に変更され、英語以外の言語による外国語書面出願が可能となりました。
なお、「特許法条約」及び「商標法に関するシンガポール条約」の加入書は平成28年3月11日にWIPO事務局長に提出され、これらの条約は、平成28年6月11日に効力が発生することとなりました。

 

<特許庁リンク>
https://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/plt_tetsuzuki_20160210.htm

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食品の用途発明に関する審査基準改定の概要

従来の審査基準においては、請求項中に用途限定がある食品の発明については、公知の食品の新たな属性を発見したとしても、通常、公知の食品と区別できるような用途を提供することはない、として、用途発明として認められていませんでした。このため、公知の食品の新たな属性を発見したとしても、特許保護を受けることができませんでした。
しかしながら、近年の健康志向の高まりや健康増進が望まれる背景から健康食品の市場規模は拡大しており、これに呼応して、食品の機能性に関する研究開発も進められています。このため、特許による保護を要望するユーザーニーズも高まっていました。また、食品分野における保護を認める制度を有する外国も存在します。
この様な状況の下、食品の用途発明に関して審査基準の点検が行われ、食品に関する技術分野における発明の保護及び利用等を図るため、審査基準の改訂が行われました。

 

A.食品の用途発明についての改訂審査基準の内容

食品の用途発明としての新規性を有すると判断した上で、他の分野と同様に、進歩性、記載要件等を判断する。

(1)食品に関する発明の請求項に用途限定がある場合には、用途限定が請求項に係る発明を特定するための意味を有するものとして認定する。

請求項中に、「~用」といった、物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)が付された物の発明を用途発明として解すべき場合の考え方:
用途発明とは、(i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出したことに基づく発明をいう。

(2)ただし、動物、植物については、用途限定が付されたとしても、そのような用途限定は、動物、植物の有用性を示しているにすぎないから、用途限定のない動物、植物そのものと解釈する。

(3)食品の用途発明の効果を立証する試験としては、他の技術分野と同様に、明細書の記載及び技術常識から、当業者がその用途に使用できると理解できる程度であればよい。

 

B.事例

例1

請求項1:成分Aを有効成分とする二日酔い防止用食品組成物。
引用発明:成分Aを含有する食品組成物。
上記の食品組成物が、「二日酔い防止用」という用途限定以外の点で相違しないとしても、審査官は、以下の(i)および(ii)の両方が満たされる場合には、「二日酔い防止用」という用途限定も含めて請求項に係る発明を認定する(両者は異なる発明と認定される=新規性あり)。
(i)「二日酔い防止用」という用途が、成分Aがアルコールの代謝を促進するという未知の属性を発見したことにより見いだされたものであるとき。
(ii)その属性により見いだされた用途が、「成分Aを含有する食品組成物」について従来知られている用途とは異なる新たなものであるとき。

 

例2

請求項1:成分Aを有効成分とする歯周病予防用食品組成物。
請求項2:成分Aを有効成分とする歯周病予防用グレープフルーツジュース。
請求項3:成分Aを有効成分とする歯周病予防用グレープフルーツ。

実施例: グレープフルーツから成分Aを単離し、抗菌効果を確認したことが記載されている。

引用文献:グレープフルーツから、血液中のLDLコレステロールを低下させる成分として成分Aが単離されたこと、成分Aを含有するサプリメント又はグレープフルーツを圧搾して製造した成分Aを含有するジュースの摂取により、LDLコレステロールの低下が見られたことが記載されている。

請求項1及び請求項2に係る発明は、歯周病予防用との用途限定の有無の点で相違するため、新規性を有する。引用文献中に、成分Aについて歯周病予防用を示唆する記載があるなどの動機付けがないなどの場合には、進歩性が認められる。
請求項3に係る発明において、歯周病予防との用途限定は、植物であるグレープフルーツの有用性を単に示しているに過ぎないため、請求項3に係る発明を用途限定のないグレープフルーツとして解釈する。そして、引用文献には、成分Aを含有するグレープフルーツが記載されている。従って、請求項3に係る発明は新規性を有しない。
詳細については、個別にお問い合わせください。

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